革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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Category :  聯合艦隊 最期の553日
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 △真珠湾奇襲攻撃

 日本海軍は、それまで補助的兵力と考えられていた航空母艦を攻撃的兵力とみなし、その集中運用により、空母と空母艦載機部隊が恐るべき存在になると予測した最初の海軍のひとつだった。
 開戦前、日本海軍は大型の高速空母を一部隊に纏め、機動部隊戦術の研究に躍起となった。その研究の最大の成果となったのが、真珠湾奇襲攻撃である。
 真珠湾奇襲攻撃は、いかな戦艦といえども停泊中の攻防能力は皆無に等しいという艦船の宿命的な弱点に着目して行われ、その結果、航空機万能時代の戦争においては、防備を固めた軍港といえども空襲に対して無力であること、空母機動部隊はその補給の続く限り、どこにでも現れ、一度の攻撃で敵に破滅的被害を与え得ること、そしてそれを防ぐために、従来主力艦とされて来た大型戦艦は、まったく役に立たないことが実証された。
 開戦当初、日本機動部隊はその機動力と打撃力で太平洋の覇者となったが、度重なる連戦による消耗の補充が追いつかず、ミッドウェー海戦では参加した四隻の正規空母すべてが沈められ、また続くソロモンの戦いで、母艦航空隊は百機以上の航空機と開戦以来の搭乗員の大半を失い、事実上その戦闘能力は失われた。
 しかし、聯合艦隊はまだ諦めたわけではない。機動部隊には歴戦の空母「翔鶴」「瑞鶴」があり、「隼鷹」「飛鷹」などを含めた改造空母群も健在である。母艦航空隊の再建が叶うなら、米機動部隊にもう一度決戦を挑むことも不可能ではないだろう。



 
 トラック環礁
 航空母艦「瑞鶴」


 地球儀を回すと、中部太平洋の一角に、ゴマ粒のような小島群がある。トラック諸島と呼ばれる島々で、それだけならただの小島の集まりに過ぎないが、この島々は周囲をサンゴ礁に囲まれており、海のど真ん中で船と乗員を休ませることが出来るので、有名になった。
 それだけではない。
 この環礁の広さは、ちょっと常軌を逸したものがあり、陣形を組んで艦隊戦の演習を行うことすら可能なほど広い。
 そのため、ソロモン海やニューギニアが戦場となった現在、格好の前進拠点だということで、「大和」「武蔵」を始め聯合艦隊の主力部隊が進出し、陣を張っているのだった。
 その中には、第三艦隊旗艦「瑞鶴」の姿もある。

 午前九時をすこし回った頃だ。
 その「瑞鶴」が、駆逐艦一隻と軽空母「瑞鳳」を従えて、環礁北部の春島沖をそろそろと進んでいると、 
『整備員整列、五分前』
 の号令がかかった。
「そうら来た。忙しくなるぞ」
 整備兵の一人が天井のスピーカーを見上げて言った。母艦飛行隊と一緒に竹島の陸上基地に陸揚げされていたところを、予め呼び返されていた者たちだ。
 短艇で「瑞鶴」に帰った彼らは、訓練か出航かで二派に分かれたが、昨夜のうちに発着訓練を行うことを知らされている。がっかりした者もおり、ほっとした者もあった。
 直ちに「作業止め」が命じられ、めいめいそれまでやっていた仕事を中断し、手早く片付け始める。早いものはもう腰を浮かせていた。
「おい里原、何してるんだ。早く行こうよ」
 そういう周囲の様子を見て、一等整備兵の峰岸も同年兵の里原に急ぐよう呼びかけた。しかし里原はまだ何かやっている。
「うん。でもこれ、もうじきだから」
 何かの部品の油汚れを拭いているのだった。しかも言葉とは裏腹に、里原は手際が悪く、なかなか終わらない。その間にもどんどん時は過ぎ、人影もなくなっていく。峰岸はついに痺れを切らし、
「あぁ、焦れったい奴だな、もう! 貸してみ!」
 里原から布巾を取り上げ、あっという間にピカピカにしてしまった。
「これでいいのか!」
「すまんなぁ」
「よし急ごう」
 峰岸は里原の手首を掴み、引き摺るように走った。格納庫に残っている整備兵はもう殆どいない。
「母艦の格納庫って」
 里原が後ろで何か言っている。峰岸は走りながら、「何?」と訊き返した。
「格納庫って、田舎の鉄工所を思い出す」
「鉄工所?」
「うちの近所にあった潰れた工場、覚えてない?」
「あぁ……。だけんど、言ってみれば母艦は海の飛行機整備工場だし、そういうものと似てるのは当たり前だよ」
「いや、中のつくりじゃなくて」
「そんじゃぁ、なんなのさ?」
 振り返って訊ねてみると、里原は何も言わず、ただぼうっと首を傾げていた。
 里原の話は、いつも抽象的で、聞いている側はそれを理解するのに大変な努力を要する。いや、峰岸だけでなく、里原本人にも、何を言いたいのかよく分かっていない感じがあるのだ。
 二人は急いでラッタルを上がり、飛行甲板に出た。太陽が白く、大きい。峰岸は里原を引っ張ったまま、略帽を目深に被り直し、整列している兵たちの後ろについた。
「馬鹿野郎」
 峰岸の前の上等整備兵が即座に振り向いて、低く怒鳴った。
「貴様らは新兵の癖に一番後から来るとは太い奴らだな」
「はい、申し訳ありません」
 峰岸が答えた。
「お客さんじゃぁ無ンだぞ。貴様ら何様のつもりだ」
 そうして二人は、ビンタを仲良く二発ずつやられた。
 やがて、艦橋の傍で士官から何やら指示を受けていた班長たちが戻って来た。里原や峰岸からすれば班長は神のような存在だが、その神の上にも更に雲上人がいるのだ。
 その雲上人が二人、略帽を整えながらこちらにやって来る。里原たちのようなよれよれの事業服ではない。形のしっかりした真っ白い軍服姿だ。彼らは少尉の分隊士で、班長に比べると親子ほども歳の差があるが、里原や峰岸は話しかけてもいけない。
 その少尉の上には、更に分隊長の大尉が居る。大尉は不動の姿勢を取る里原たちの前に悠然と立ち、腕時計を見た。同時に艦橋でラッパの音。
『整備員整列』
 大尉は顔を上げ、二人の少尉を横目で見る。
「第十分隊宜しい」
「第十一分隊宜しい!」
 大尉は小さく頷き、一同を見回す。
「予定訓練かかれ」
 手狭な艦上に整備兵たちが「わぁっ」と散らばった。里原と峰岸は、塹壕の中に颯爽と飛び込むニュース映画の日本兵のように、舷側のポケットに身体を埋めた。
 起倒式マストのロックが解除される。起重機の音に似た駆動音が海鳴りに混じり、片舷二基ずつの通信マストが徐々に水平線に近付いていく。
 それがまだ倒れきらないうちに、艦橋後部のメインマストにかかっていた「瑞鶴」の船名符字、「J」「L」「U」「A」の各旗が下げられ、代わりに何枚もの信号旗が、ばらばらと機関銃のような音を立てて、潮風にはためいた。二隻の僚艦に向けた合図と思われるそれが、何を意味するのか、里原の位置からは読み取れなかったが、それでも「瑞鶴」は、適宜信号旗を入れ替え、回答旗を揚げて、時には信号兵の手旗なども駆使しながら、随行艦と何事か相談し合っている。
 暫くの間、その無言のやり取りは続いた。「瑞鶴」は遠くを同航する僚艦「瑞鳳」や、後方に占位する蜻蛉釣りの駆逐艦に向けて、盛んに何かを訴え、相手からの返答を確かに聞いて、それに応答している。しかしそれに使われる言語は常に里原の理解を超えており――里原には、この三隻がいったい何を話し合っているのか、終始分からないままだった。
 ある時、それまでの信号旗に替わって、吹流しが半揚された。ついで、警笛がギャアと鳴り渡り、里原たち若年兵の胸を掻き回して、残響が頭の中で跳ね回った。だが古参兵や下士官は涼しい顔をして、煙草を吸っている。
「なんだ貴様たち。警笛くらいで竦み上がるやつが戦争やれるか。しっかりしろバカモン」
 里原と峰岸は略帽の上から一発ずつ、頭をはたかれた。里原はそれで我を取り戻した。
 気付けば汽缶の音が高まり、艦は振動している。こころなしか、母艦は速度を上げたようだ。ブルワクの隙間から舷側を覗き込むと、海はザァッーと渦をまいて、白い潮が流星の如くに、駆け抜けつつある。艦は旋廻している。風が強い。
「オイ、今日の風は?」
 傍でどっしり座っている二等整備兵曹が同僚に訊ねている。
「東南の風、5メートル」
「それじゃ、20ノットってところかな」
 それなら、まだ余裕があるな、と里原は思った。人づてに聞くところでは、「瑞鶴」は35ノット近くまでは出るらしい。
 もっとも、そんな高速で突っ走られては、「瑞鶴」は大丈夫でも、随伴の駆逐艦はたまったものではないだろう。駆逐艦の足は「瑞鶴」より速いが、最大戦速では駆逐艦のタンクは半日で空になる。瞬発力では駆逐艦が勝るが、「瑞鶴」は健脚で、かなり速く走っても息切れしない。
 やがて南の空に、ぽつぽつ黒点が現れだした。間もなく、はっきり機影群と分かるほどの距離になり、次いでその先頭に立つ機が翼を振っているのが見えるようになる。
「連中、お出ましだ」
 班長が言った。着艦制動装置が持ち上がり、同時にマストの吹流しが全揚される。フラップを降ろした九七艦攻が甲板に降り立った。
「それ急げ!」
 里原は善行章付きの先任兵に襟首を掴まれながら、ポケットを飛び出した。「瑞鶴」の長い一日が始まる。





 


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 △海軍大将・古賀峯一

 大日本帝国が西太平洋における権益の拡大と覇権をかけて、一大決意を胸に、米英に対する開戦を号してから早二年が過ぎた。
 開戦当初こそ戦いを有利に進めていた日本軍だったが、その優勢は半年と続かず、伸び切った補給線は第一線に満足な補充を与えられず、ソロモン群島ガダルカナル島で挙がった米軍反攻の火の手は、忽ちの内に日本軍を過酷な消耗戦の泥沼に引きずり込んでいった。
 ガダルカナル島の激戦は足掛け七ヶ月に及び、日本軍は夥しい艦船、航空機、そして熟練した兵士を失って、しかもついにガダルカナル島を奪還することは出来なかった。
 日本軍はガダルカナル島から撤退したが、ソロモンを巡る戦いはその後も激しく続けられた。そしてその戦いの中で、かの真珠湾奇襲攻撃を実行に移し、全海軍、全国民の絶大な信頼があった聯合艦隊司令長官・山本五十六大将が、前線視察に向かう中途、乗機を米軍機によって撃墜され、戦死したのである。昭和十八年四月十八日であった。
 山本大将の死は、海軍上層部に大きな衝撃を与えた。しかしいつまでも動揺していられる時局ではない。海軍省は直ちに後任として、横須賀鎮守府長官の古賀峯一大将をその任に就け、古賀は急遽、内南洋トラック島の聯合艦隊旗艦・戦艦「武蔵」に将旗を掲げたのである。



 
 トラック泊地
 戦艦「武蔵」


 油膜を張ったように艶やかなトラック環礁の海面に、「武蔵」の真っ黒の巨体が横たわっている。
 古賀が内火艇から乗り移り、舷梯を登ると、艦上には既に福留繁参謀長以下、数名の司令部幕僚が待っていた。
 古賀は彼らの案内に従って、まずは長官室に足を運んだ。そこで古賀は、白木の箱に収まった遺骨と対面した。
 それが山本長官だった。
「なんていうことだよ」
 古賀は庇付きの白い軍帽を取りながら、思わず呻いたものである。
「戦争がこんな風になってから死んじまうなんて、あんた、それはあんまりだ。あんたは神様になってそれでいいかもしれないが、私はどうなる。負け戦になって、国民に石を投げられるのは私だぞ」
「これは……。はは、何を弱気なことを」
 すると傍らの福留参謀長が、肥えた腹の肉を揺らしながら、躊躇いがちに周囲に笑いかけた。
「まだ敗戦と決まったわけではありませんぞ」
「いいや、福留君」
 古賀は相変わらずの厳しい顔つきのままで、ゆっくりと椅子に腰を降ろした。本省や軍令部の客間にも充分置けそうな、立派な椅子だ。
「今日、もし我々に勝算があるとしても、最早三分の勝ち目もない。だが我々は将卒として、陛下や国民の期待に出来る限り沿わねばならんのが立場というものだ。戦局は有利とは言えないが、それでもまだ聯合艦隊は、戦闘能力を失ってしまったわけではない。今後の聯合艦隊の取るべき方針として、私はこの状況を充分に活かして行きたいと思う」
「と、仰いますと」
「つまり、勝算がなくなった以上、我々が採れる戦略は非常に限られたものでしかないということだよ。それは時間を稼ぐことだ。このまま戦争が続くなら、我が国は恐らく負けるだろう。山本さんはそのことをよくご存知であった。それで、負ける前に勝つことを考えたのだ。しかし」
 古賀は暫く言葉を区切り、卓上の白木の箱を撫でさすった。
「それは不運にもうまくいかなかった。あとはどれだけ時を稼ぎ、敵を梃子摺らせるかにある。戦いが長引けば、或いは敵側が譲歩を示し、我々に和平を提案することもあるかもしれん。国体を護持し、国威を維持するの道は、それ以外にはないと思うが」
「ぁにを手ぬるいことを!!」
 そのとき室の中で何者かの怒鳴り声が挙がった。天井の電球がビリビリ揺れ、古賀も声の勢いで椅子から放り出されそうになった。
「だ、誰だ。今の声は」
 古賀は居並ぶ幕僚たちを見やった。だが福留参謀長以下、古賀のスタッフは全員が気を失ってしまって、倒れている。
「敵が音を上げるまで根城に篭って黙って待つなどとは、それが将たる者の道であろう筈は無し! そのような姑息千万の儀、みどもには断じて認められん!」
 古賀は耳を塞ぎ、顔をしかめながら目を凝らした。すると部屋の隅に、真っ黒い影がうずくまっているのが見えた。
「そこに居るのか。こっちへ出て来い」
 古賀が呼びかけると、影はのっそりと立ち上がった。うずくまっていたのではなく、座っていたのであった。三尺はあろうかという、巨大な野太刀を抱いて……。
 立ち上がった相手は、狭い艦内ということもあってか、恐ろしく巨体に見えた。黒の着物の上によれた鼠色の袴を着けている。古賀は、いつか内地で見た無声映画の一幕を思い出した。しかし、その演目を思い出すことは出来なかった。
 相手はゆっくりと、一歩ずつ、すり足気味に古賀に近付いてくる。一方の古賀は悠然と腰掛けたままだ。
 相手が卓の向かいに立ったとき、古賀はようやく、相手の浅黒い顔と、ぎらついた目を見た。ぼさぼさの髪を荒々しく束ね、束ね切れなかった何本かの髪が前に飛び出ている。
「不精だな」
 古賀が言うと、相手も口を開いた。予想に反して、高く、朗らかな声だった。
「お手前が、新しい大将殿であるか」
「如何にも」と答える代わりに、古賀は無言で頷いてやる。
「では、お手前が上品過ぎるのだ。大将ならば大将らしく、命じることを命じろ。出戦の用意はとうに整っているぞ。お手前とみどもとで、一緒に敵を蹴散らかしてやろうではないか」
「そういうお前は、いったい何なんだ」
「みどもか」
 古賀が訊くと、相手はにやりとした。
「みどもは、板東は武州の住人、藤原の……」



 古賀は、目を覚ました。数秒の間だったが、眠りに落ちていたものらしい。
 部屋を見回すと、古賀の参謀たちは古賀の話を元に、それぞれに話し合っていた。福留参謀長は、古賀のために紅茶を淹れてくれている。だがあの武州人の黒い巨体は、形も、影も、どこにも見当たらなかった。
 古賀はティーカップを手に、舷窓に立った。ちょうどそのあたりに、あいつは座っていたのだが。しかし古賀の耳に聞こえるものは、舷側に打ち寄せる静かな波の音と、海鳥の声、それに参謀たちの盛んな無駄話だけであった。
 ただの夢だったのだろうか。旅の疲れがたまさかに見せた幻だったのかもしれない。古賀は、それ以上のことは考えないことにし、カップを傾けた。シナモンティーの甘い香りが間近にある。しかし新長官の職を全うすることは、このシナモンティーのように、そしてあの侍が言ったほどには甘く無いはずだった。
 参謀たちの話し合いは続いている。しかし、長官室の片隅の一振りの守護刀に、気を留める者は誰もいない。




 


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