革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 戦艦の名前にもなっている「Prince of Wales」(ぷりんす・おぶ・うぇーるず)は、しばしばウェールズ皇太子と訳されるが、この場合の「Prince」は王子本人を指す語ではなく、大英帝国の最年長の王子に対して送られる『称号』のようなものである。したがってウェールズ皇太子、という訳は間違いである。
 ウェールズというのは現代ではグレート・ブリテンを構成する国のひとつであり、十一世紀にイングランドとの戦争に敗れてその版図に組み込まれた地域である。
 しかしウェールズは他の地域のようにイギリス人に同化されることはなく、それどころかここに殖民した多くの異民族は、逆にウェールズ人になってしまった。……というわけで、大英帝国としてはウェールズのイギリス支配を強調する必要性から、大英王室の王子に「Prince of Wales」を名乗らせたわけだね。

 さて、前振りが些か長くなってしまったが、今日はマレー沖海戦のお話。

 マレー沖海戦というのは、太平洋戦争では四番目位にゆうめいな海戦で、ここに出入りしている人なら当然知っていると思うが、日本の長距離攻撃機部隊がイギリスの戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」と巡洋戦艦「レパルス」を沈めた戦いである。洋上で行動中の戦艦を飛行機で撃沈出来ることが確認された海戦だった。
 一般的に日本の圧勝だったと謂われるこの戦いだが、少し待って貰いたい。マレー沖海戦は、本当に日本の圧勝だったのか?

ハワイ・マレー沖海戦 ハワイ・マレー沖海戦
伊東薫 (2001/08/21)
東宝

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 これを検証するにあたって、当時の状況を再確認してみよう。
 まず十二月八日未明、日本軍は英領マレー半島北端の浜辺、コタバルに上陸した。
 対英開戦はアメリカと違い、宣戦布告が遅れたどころではなく、そもそも宣戦布告など行わなかったし、それに先立つ外交交渉自体がなかったが、まぁそこはイギリス。侵略にも慣れています。
 イギリス軍は六千人ほどでコタバルの防備をかためていたので、日本側も大発艇十五隻が沈没、将兵七〇〇名が死傷、という結構な損害を出すが、四時間後には海岸を制圧。こうしてマレー半島の戦いが始まった。
 日本軍、マレー上陸! の報を受けて、シンガポールにいたロシアバルチック艦隊イギリス東洋艦隊は直ちに抜びょう。日本軍船団を求めて北方に転針したのが九日の午前五時である。
 東洋艦隊が擁する最新鋭の戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は精強であり、現地の日本軍にとっては大変な脅威だった。九日十五時、日本の潜水艦「伊六五」は北上する二隻のイギリス戦艦を発見するが、この情報は南遣艦隊にはなかなか伝わらず、小沢提督は二時間後にようやく届いたこの報告を聞いて腰を抜かすほど驚いた。小沢提督は「英戦艦シンガポール港内にあり」という情報を三時間前に受けたばかりだったからである。
 イギリス東洋艦隊が実際にシンガポールを出港したのは八日十八時だから、東洋で三番目に強い戦艦がシンゴラ沖の主力船団に向けて突撃してるあいだ、日本軍はずーと「イギリス艦隊はまだシンガポールだでよ」と思ってのんびりしておったわけである。

 さて対する日本の上陸船団はというと、英空軍の哨戒圏内をうろうろしてして、二度にわたって偵察機の触接を受けていた。
 一度目は欺瞞針路を取って行き先をくらましたが、二度目は既にシンゴラに近付きすぎていて、針路をごまかすことも出来なかった。しかしここで天運は日本側に味方し、この哨戒機はシンゴラに向かう日本船団あり、の情報をシンガポールに打電する前に撃墜されてしまう。
 さて、そのころ日本側もいつの間にか出撃していた英艦隊を必死になって捜していた。しかし悪天候のため捜索ははかどらず、やがて日が落ちて索敵は一層困難となった。日本側の焦燥はつのる。この時、日本艦隊とイギリス艦隊は五十海里の距離まで接近したが、やはり悪天候のため双方気がつかず、そのまますれ違った。
 このまま東洋艦隊がシンゴラに突入すれば、おそらく十日黎明には、シンゴラ沖は火の海となっていたであろう。
 しかし、フィリップス提督は艦隊上空を通過した日本の索敵機が、自艦隊を発見したものと判断して(実際には発見されてはいなかった)、途中で待ち伏せされることを恐れ反転。翌十時、イギリス艦隊は日本機によって発見され、二隻の戦艦は撃沈されることになる。

 両軍の思惑が文字通りすれ違ったこの海戦の結果は、日本にとって非常にあやういものであったように私は思う。イギリスの二戦艦はどのみち撃沈されただろうが、その代償として日本軍の側も大損害を受ける危険性に満ちていた。ただほんの少し日本側がツイていたことが、この海戦の明暗を分けたと言えよう。
 しかし後の戦いを見る限り、日本軍はこの海戦でツキを使い果たしたようにも思えるなぁ。
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 私はMSNメッセンジャアーなるコミュニケーション・ソフトを何年と使っている。これはMSN hotmailのアカウントをもっていれば誰でも利用することが出来るので、本メアドのアドレスを忘れたあと、電子メールの送受信をもっぱらhotmailに頼っている私なら、何の問題もなく無料で利用できる。
 時々、プロパイダー様から「おまえは、おまえのメールボックスを整理するべきだ。なぜなら、おまえに宛がわれたメールボックスの容量が、限界に達しつつあるからである」という至極わかりやすい手紙が届くものの、そもそも私はアドレスを知らないからどうしようもない。

 さて、このソフトは無料であるので、さもそこに在るのが当然というように、クソろくでもない広告バナーが貼り付けられている。以前は
「MSNメッセンジャアー」
 とだけ書いてあって、クリックするとマイクロソフト本社のインターネットに飛んだような気がするのだが、いつのまにかインチキ会社の宣伝広告になっていた。
 最近よく目に付くのはネットゲームの宣伝であるが、これがまたありとあらゆる不愉快な言葉で彩られており、「完全無料」「永久0円」など、生まれてこのかた如何なる知的活動もしたことがない人間が書いたと推測される文章が、GIFアニメーションの中で、めまぐるしく動き回っておる。

 こういう広告の類を作る人は、一人でたくさんのものを手がけるのだろうに、なぜ一向に成長しないのだろう。まぁ、これはスパムもそうだわな。
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 今日はトップのカウンターが夕方くらいまで動作しなかった。このカウンター、デザインは気に入っているのだが、時折正常に稼動しないことがあり、そうなるとページを開くまで三十秒近くかかるのでたいへんだ。こまった。

 それはともかくとして、そろそろ床屋に行ってから二ヶ月経つので、髪が増えてきて頭がおもい。
Category :  ゲーム
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「なみのタイフーン級よりもでかい……。なんだこのトビラは?」
「気付いたか。さすがだ。
 魚雷発射管にしては少し大きすぎるし――巡航ミサイルを水平に発射するわけもない」
「そうだな。じゃぁなんのためだ」
「曳航用ソナーの格納庫か?」
「いや、それにはスクリューに近過ぎる。
 まさか――これは、キャタピラーかもしれんぞ」
「なんだ?」
「ああ、キャラピラー・ドライブさ。磁気型水力推進装置ってな。わかるか?」
「いや全然」
「つまりだな、水でやるジェットエンジンだ。
 前のほうで海水を取り込み後ろへ噴き出すんだが、これには動く部分がないから音が静かなんだ」
「そんなに静かか」
「俺たちも二年ほど前に試作したがうまくいかなかった。
 やつらほんとにこれ作ったのか? タダの模型じゃねんだろうな」
「今朝、海に出て行った」
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Category :  小説
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 酸欠寸前の飽和した頭に秩序を取り戻そうと足を止めたとき、不意に彼女の左足は一気に力を失い、イリスはなすすべもなく片膝を突いた。傾いた身体を支えようと手を伸ばすと、何かの壁のようなひやりとした感触が手のひらに満ちる。体力と戦傷を顧みず、数十分にわたって全力疾走を続ければ、それは当然の帰結である、とも言えた。
 イリスは何度も立ち上がろうとしたが、一度力が抜けきってしまった左足は、もはや彼女のものではなかった。イリスは「くッ」と小さく呻く。こうなると自分の力だけではどうにもならないことを、イリスはよく知っていた。
 視神経の快復とともに、ぼやけていた視界が徐々に澄んでいく。イリスの意識は動かない四肢に変わって、両の瞳に集まる。視野には霞が掛かっているが、薄闇の中に影が二つ、浮かんでいるのが見えた。影はしだいにその線を現し、それが人の形をしていると気付くまで、さほど時間は要さなかった。
 二人の剣士が毅然として構え、対峙する様子はまるで中世の決闘を思わせ、イリスも開戦当初は、これがあれから八十年も経った未来の戦いだとは信じ難かったものだ。――二人の剣士は、壁を背にする側が頭ひとつ低い。
 やがて脳に酸素が取り込まれ、イリスは正常な思考能力を取り戻した。それと同時に、本来あって然るべき疑問がこみ上げる。戦っているのは、いったい誰なのだ?
 イリスは眼を凝らす。どうやら二人共、彼女の知る人物だ。一人は日本刀。私が今日、死に物狂いで執拗に狙っていた敵である。そしてもう一人は我が妹、ホーネット。ホリー。
 緊張に耐え切れず、先に動いたのはホリーだった。わっ、と短い喚声を上げて、敵の間合に深く踏み込む。
「いけない!」叫んだつもりでも、イリスは声が出なかった。
 剣閃が走る。待ち構えていた敵は、先に仕掛けたホリーよりもはるかに速く、彼女を袈裟斬りに斬り下ろした。鎖骨が砕け、肋骨の割れる音がこだまする。同時に噴き出した夥しい量の鮮血が、たちまち二人を染めた。
 無彩色の世界の中で突如として弾けた鮮烈な赤が、イリスの双眸に焼き付き、彼女生来の美意識を刺激する。愛する妹を目の前で斬殺された悲しみも、憎しみもない。イリスはただそれを、美しい、綺麗だと思うだけであった。そして画家としての彼女の本能は、あの美しさを我がものにしたいという純朴な気持ちで満ちた。
 ホリーは人形のようにぱたりと倒れる。疲労による身体の束縛はすでに消えていた。イリスは膝小僧を支えにしてゆっくり立ち上がり、ふらりと歩き出した。ホリーを斬った敵は、地面に突き立てた大刀に身体を委ね、大きく肩で息をしている。
 その刀の間合ギリギリのところで、イリスは足を止めた。
「また会ったわね」
 イリスは細い腕を組みながら、続けて訊いた。「名前は?」
 相手の少女は澄んだ漆黒の瞳をイリスの全身に向けながら、体勢を整え、刀の柄元を握った。しかしイリスには一切の気の後れも、防禦に手の回らない箇所もなく、それを知ると彼女は静かに「瑞鶴。日本の空母、瑞鶴」と応えた。
「あなたのような人専門の、殺し屋です」
 イリスはふっと口元を緩め、「そう」と言った。
「私はイリス。そうね、私は殺し屋ではないけれど――」
 言いながらやおら背中に手を伸ばし、イリスは野戦ナイフの柄を握り、指で鞘をはねる。カシン、という小気味良い音が響き、瑞鶴と名乗った眼前の少女が、わずかに身を固める。
「あんたみたいなの専門の、美術家よ」
 イリスは一気にナイフを抜き、逆手に持って瑞鶴の懐深く飛び込んだ。瑞鶴は地面を蹴って後ろへ跳び、イリスの刺突を弾く。

テーマ:ミリタリー - ジャンル:小説・文学

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 ごくありふれた言葉を使うなら、最近、若者の言葉の乱れが社会問題となっている。ウェブサイトを持つ中高生が珍しくもなんともない今日、それはインターネットの中でも至る所に散見される。
 中でもよく見かけるのが「TOPページのみリンクフリーです」というような文章で、私などはこうした記述を見るたび、「それはリンクフリーではないだろ」と思うのだった。江戸時代、日本は長崎という世界に開かれた港を持っていたが、当時の日本の対外政策を語るうえで「鎖国」の二字を外すことはやはり出来ない。
 もっとも、リンクについての注意書きがこまごまと書いてあるサイトに限って、そもそも誰もリンクなどしないという現実がある。また注意書きが長い掲示板もこれと同様であり、中高生が抱く「主人公=俺様」思考の強さがよくわかる。安心したまえ。誰も君を狙ったりはしない。

 さて、ミリタリーの界隈で中高生がよく口にする言動としては、「盲目的な帝国日本賛美」「戦艦は空母に勝てる」「朝鮮人皆殺し」などが代表的である。二十一世紀初頭の軍オタな中高生は、まず必ずこれらのうちのいずれか、あるいはすべてに熱中するといってよい。
 翻せば、軍オタの中高生にとってはこれらの概念をしだいに解脱していくことがいわゆる「成長」であり、やがてこれらに捧げた熱が冷めたとき、ばかばかしい、どうでもよいと思い始めた頃が軍オタとしての成人であろう。

 中高生の諸君。新興宗教のように宮城を遥拝したり、くだらない架空戦記を読み耽ったり、会ったことも話したこともない鮮人・露人・支那人に向けて、無意味に憎悪をぶつけられる年頃はすぐ終わる。大いに英霊を敬い、大いに隣国を憎め。時は限られているぞ。


新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論〈3〉
新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論〈3〉
小林 よしのり (2003/07)
幻冬舎

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 但し、うち以外で。
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 それまで散々激しく打ち込んでいた瑞鶴は、数合打ち合った後、敵の護りが堅いことを悟るや、素早く間合を取り、ふたたび「動」から「静」へ転じて相手の隙を探った。敵――ホーネットもまた、同様。
 真剣の勝負というものは、本来一瞬で生と死が決まるものである。しかし、腕の立つ者同士が対峙した場合はその限りではない。どのようなとき、人は斬られ、死ぬのかを熟知した者は、自らをその状況に立たせぬよう常に気を配って動くため、いつまで経っても勝敗が決まらないのだ。
 この二人の場合も、やはりそうであった。僅かでも気の緩みを見せればすぐさま飛んでくる敵の斬撃を気にしながら打つ剣は、互いに決定打を欠き、自然、やがて両者は膠着状態になる。
 瑞鶴は正眼の構え。小さく息を吐き、汗で湿った柄を握り直す。刃の切っ先は、迷い無く敵の心臓を指向していた。


「殺し?」
 元治元年、一八六四年の初夏。男――京都見廻組与頭、佐々木只三郎は、執務の手を止め、同じく与頭の小林弥兵衛に顔を向ける。しかし、それも一瞬。佐々木は「珍しくもない」と一蹴すると、文机に向き直った。
「まぁ待て。一昨日、畏れ多くも御所のまん前で殺された無礼なやつが居たろう?」
 冷静な佐々木とは対照的な、随所に粗雑さが目立つ口ぶりであった。
「赤松の件か」。あくまで言葉数少なく、佐々木は応える。「そう、そいつだ」と小林。
 肥前脱藩浪人・赤松又佐は、この四月に発足した見廻組が追った、最初の大物だった。見廻組が出来るよりもずっと先に上洛した赤松は、自慢の剣腕をふるって幕府や親幕府諸藩の要人を幾人か手にかけ、われこそは忠君愛国の徒、憂国の士と自称していた男である。およそ一月前の五月二日、会津藩の軍事奉行添役、永野康隆が藩邸の門前で何者かに襲撃され、殺害された事件についても、当初から赤松の関与が疑われていた。
 その、赤松。六月四日の朝、額を砕かれて仰向けに転がっているのが見つかった。
 赤松は刀を抜くどころか、柄に手をかける前に撲殺されており、京洛ではその下手人について数々の噂が立ったが、その翌日にあたる六月五日、見廻組の兄弟組織とも言うべき新撰組が後世に名高い池田屋討入りを起こすと、たかが一介の人斬りの死と、それに関連する数々の謎は一挙に話題性を失っていった。
 だが佐々木は決して、この哀れな殺人狂のことを忘れてはいなかった。赤松に殺害された会津藩の永野康隆といえば、彼の生家の右隣に住んでいた男である。
 他人事ではないという意識以上に、会津を嘗めた赤松の行動が、佐々木を刺激していた。だから赤松が殺されたと聞かされても、佐々木はむしろ顔も知らぬ下手人に共感を覚えさえし、探査も形式のみに留めるつもりでいたのである。
 しかし、次に続いた小林の言葉が、佐々木のその思惑を霧消させた。
「あんたにゃ残念な知らせだ。下手人が現れた」
 佐々木はまた、寸刻だけ筆を止めた。が、「そうか」とわずかに気落ちした声を出すと、また硯に筆を浸し、巻いた紙の上に走らせる。
「自らやってくるのは初めてだな。変わった男だ」
「女だよ」
 佐々木がギクりと顔を強張らせると、「女が苦手だったな」と小林はニヤけながら言う。
「痴情のもつれか。女に殺されるとは赤松も因果なやつだ。……さっさと奉行所に引き渡せ」
 完璧のように見える佐々木も、過去によほどの失敗をしたのか、こと女性に関しては苦手意識を露にする。小林は両手を頭の裏で組み、「本当にそれでいいのかね」と言った。
「どうしてだ」。佐々木が訊ねる。すると小林はにわかに真顔になり、あたりをはばかる低声でもって、ささやいた。
「元会津藩剣術指南役・橘秋斎の娘、橘凛といや、貴様、関係がないことはあるまい?」
 橘秋斎。その名を聞いたとき、佐々木の心臓はそれだけで跳ね上がった。背中をひどく冷たいものが走る中、佐々木は小林に振り返った。
「――事実なのか?」
「わからん。直接訊け。本人がいる」
 容易く言う小林に対し、佐々木は気が重かった。それは佐々木の性格以前に、木刀を片手に道場に立つ剣鬼・橘秋斎の昔日の姿を思い出したからであり、彼の手ほどきを受けていた頃の記憶が、時を経てすっかりただひたすら恐ろしいものへと変貌してしまっていたからでもあった。――そして更に言えば、そう、あの秋斎の娘なら、たとえ人斬り又佐を一刀の下に叩き伏せたとしても、おかしくはない。咄嗟にそう思ってしまった己自身の心が、佐々木には不気味だった。
 佐々木は、少しためらいながらも、傍らに置いていた佩刀を手にすると、ゆっくり立ち上がった。
「わかった。会おう」


 凛は、普段使われていない奥まった小部屋に通されていた。他の組士に目立たぬよう、小林が機転を利かせたのである。六畳ほどの和室には装飾品、調度品の類は一切なかったが、それでも黴臭さがほのかに漂う。
 小さな部屋の奥、明かり障子を背後にして、背筋を伸ばし、握った両の拳を膝の上に置いて、少女がひとり微動だにせず座っていた。まばたきさえしない。しかし確かに、なるほどこれは秋斎の娘だ、と佐々木は思った。少女がわずかに漂わせる張り詰めた空気は、佐々木には覚えがある。
「随分久しいね、凛君」
 佐々木はそう言いながら、凛の正面に腰を降ろす。二十九歳の佐々木と、まだ十四の凛。加えて長身の佐々木を、凛はわずかに見上げながら、「あなたは?」と訊いた。
「やはり覚えていないか。まぁ無理もない、君はまだ赤子だったし、私もあの頃は少年だった。会津藩士佐々木源八の三男、只三郎だ。君の御父上が会津藩剣術指南だった頃、世話になった」
「佐々木只三郎様……? すると、御家老の手代木直右衛門様とは――」
 佐々木はわずかに失笑して、
「私の兄だ」
 と答えた。
 凛は深く頭を垂れ、「御無礼をお許し下さい。橘凛と申します」と静かに言う。既に、咎人としての覚悟は決まっているようだ。
 そのとき佐々木は、凛の左脇に添えるように置かれた木刀を眼に止めた。木刀は柄から先が折れて、刀身は殆どない。思えば赤松の撲殺死体のすぐ傍にも、折れた木刀が転がっていた。佐々木の頭の中で、二つの木刀は綺麗に繋がってひとつになる。
「……いつから京に?」
 暫しの沈黙が訪れ、佐々木は堪らず口を開いた。やはり、女は苦手である。それに対して「先々月の暮れです」、と凛。
「永野様の護衛、のつもりでした」
 佐々木は、二の句が告げなくなった。幼少の頃より口数の少ない男である。それに加えて凛の心情もよく理解出来るだけに、尚更だ。秋斎亡き後、橘家の両姉妹を引き取って育てたのが、永野家だと聞く。
 いかに相手が反体制派の人斬りであっても、当然、それを勝手に殺してよいという法はない。この時代、敵討ちは正当な報復手段であったが、それが認められるのは父母兄弟の仇に限られ、永野康隆と直接血の繋がりがない凛の場合は、殺人として罪せられるものと見るのが正しかろう。
 しかし、あまりにむごい話ではないか、と佐々木は思う。両親を伝染病に奪われ、育ての親を今度は殺人鬼に奪われた。仇を討てば法の裁きを受け、凛自身はおろか、老いたとは言え五百年の長い歴史とそれに見合った風格を持つ橘家の家名をも、地に墜しめてしまう。
 若い頃から名誉を守れ。会津藩の気位高い教えを受けて育ってきた佐々木には、凛の辛さがよくわかっていた。このまま凛を奉行所へ渡せば、処断を待つまでもなく、凛はおそらく生きてはいまい。そうなれば、佐々木は義理が立たない。
「会津の橘家といえば、結構な家柄だ。在京の会津藩士にも、御尊父の教えを受けた者は多い。悪いようにはせぬから、暫し待ってくれ」
 意図しない佐々木の言葉に、凛は「え?」と声を出したが、佐々木はそれには何も返さず、すっと立ち上がると背を向けて、凛と小林の視線を受けながら室を出た。
 佐々木は、どうにか凛を助けたいと思った。そして、佐々木にはそのすべがあった。しかしそれは魍魎跋扈する京の都に、新たな修羅を一人、生み出すことを意味していた。

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「こいつぁ『時間を稼げ』、ってやつだねぇ」
「瑞鶴」艦長、野元為輝大佐はその好々爺然とした風貌から発する印象を崩さずに、顎の無精髭を撫でながら、のんびりした調子で言った。双眼鏡越しの視線の先には、駆逐艦を従えて舳先を巡らせ、隊列を離れていく「翔鶴」と「瑞鳳」がある。
「なァに、これからが本番ですよ。しんがりは御不満ですか? 艦長」
 野元と同じ白い略式服に、ひとつ下の襟章をつけた飛行長が、カラカラと笑う。「そんなことはないさ、源田君」。応える野元の顔は、不満よりも、むしろ喜色のほうが目立っていた。
「しんがりは誰にでも出来るという仕事ではないからね。本艦が選ばれたのは光栄というものだ。それに――」
 自ら進んでそれを受けるような、どうしようもない者たちも、居る。
 野元の生まれ故郷・鹿児島が、まだ「薩摩」と呼ばれていた頃、そこに生きる兵たちは、おそらく日本で最強の戦闘集団だった。特に薩兵が得意としたのが遅滞戦術で、敗走する味方のしんがりを薩摩が引き受けたとき、それはかならず功を奏した。
 この身体にも、少なからずその血が通う。野元は手のひらをほのかに染める熱い血潮を見つめ「だから、必ずうまくいく」と胸の中で呟いて、たかが一艦の艦長に過ぎない自分が、これからの戦闘のすべてを、実質的に統率しなければならないことに対する不安をかき消した。
「源田君。稼動全機をもって、第三次攻撃隊を編成する。何機飛べる?」
「はい。零戦五機、九九艦爆二機、九七艦攻六機です」
 源田実といえば、かつては第一航空艦隊で航空参謀を務めていた男である。このくらいはメモを手繰るまでもなく、出撃可能な搭乗員まで諳んじられる。
「よし、九七艦攻は徹甲爆弾で出す。全機上げてくれ。」
 機材の損耗率の高さに寒気を覚えるでもなく、野元は命じる。
「敵にとどめを刺すとしよう」



 傷は深くないはずだが――出血が止まらない。全身の血液が、あのナイフでつけられた傷口から湧き出ようとしているようだ。
 唾をつけておけば治る、というものでもないだろうし、あのような小刀には致死力の不足を補うため、毒を塗る場合も多い。消毒が必要だ、と翔鶴は思った。
「翔鶴さん?」
 不意に、翔鶴はその声を聞いた。「隼鷹か」。翔鶴が言うと、隼鷹はその温和そうな姿を薄闇の中から現した。隼鷹は翔鶴を見ると、口元を押さえ「ひどい傷」と言った。
「心配ない。それより貴様、焼酎がないか」
「御座います」、と隼鷹。隼鷹はどこからか一升瓶と包帯を取り出すと、翔鶴に差し出した。傷口に焼酎を浴びせるという消毒の仕方は、武士のあいだでは昔から一般的な応急処置だが、隼鷹の眼には、それはただひたすら異常に映る。
「行くのか? これから」
 礼を言って受け取った翔鶴は、瓶の栓を抜きながら訪ねた。隼鷹は「はい」と頷く。
「ずいぶん遅れてしまいましたけれど、どうやら間に合いましたから」
 敵はまだ、隼鷹の存在に気付いていない。隼鷹が動くには絶好の条件が数多く揃っていた。いま戦場に飛び込めば、戦果は間違いないだろう。
 翔鶴はそれを聞くと「これは、あの阿呆にも言ったことだが」と前置いてから、続けた。
「人はたやすく死ぬぞ。わかっているか?」
 すこし声を低くして訊いた翔鶴に、隼鷹は小さく笑って応じる。
「危険を恐れていては、何かを得ることは出来ませんし、何かを守ることも、出来ませんわ。特に、わたくしのような商人は」
 翔鶴はそのとき、この商人出身の娘の中に、予想を遥かに上回る強さを垣間見た。この娘には、私や瑞鶴の抱くような迷いがなにもないのだ。迷いのない者は強い。何にしても、そうである。
「なに、心配無用ですわ。わたくしは商人。儲けのない仕事は、いたしません」
 翔鶴は「そうだな」と頷いた。
「奴を、宜しく頼む」
 心得ています。そう言って隼鷹は微笑み、そして再び闇の中に溶けていった。

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 野戦用の大型ナイフというものは非常に優れた武器で、戦争が大砲と機関銃、そして航空機によって戦われるようになった今日においても重宝される存在である。
 文字通り相手の息がかかるほどの距離で渡り合う超接近戦に陥ったとき、兵士が最後に頼れるものは長靴に差し込んだ戦闘ナイフであり、ひとたび引き抜けば、それは持ち主の期待通りに威力を発揮する。相手の得物が地上最強の白兵兵器、「刀」でなければ、だが。
「――そのようなもの、刃物のうちに入らぬ」
 と、翔鶴は静かに言った。一方のイリスは、頭上に振り下ろされた刃を受けるだけで精一杯といった体で、喉の奥からはわずかに呻き声が漏れた。
 両手を限界まで伸ばし、最も力の集中する点を止めてはいるが、それでも刃先二尺五寸もある翔鶴の刀を短刀だけで受け止めるには、イリスの腕は細すぎ、身体も小さすぎた。イリスは一歩も動けないどころか、些かでも気を抜けば脳天を割られる。
 どうすればいい――。滲んだ汗が眼の中に流れ込まないよう注意しながら、眠りについていた「思考」を呼び覚ます。
 兎も角、このままでは早晩真っ二つにされて終わりである、とイリスの脳は告げた。それでなくとも、眼前に白刃が閃いていれば誰でもわかる。いつまでも持ち堪えられないことも、既にあらゆる身体の部位が訴えて知っていた。
 ならば、どうするのか?
 それは彼女には、自明のことだった。
「ひとつだけ聞かせて頂戴」
 イリスは心持ち顔を伏せ、低くしかし明瞭な声で、翔鶴に問うた。
「あんたは姉さん? それとも妹?」
 予想しなかった言葉とその唐突さに、翔鶴は一瞬真意を探る眼をしたが、やがてそれまでと同じく落ち着き払った口調で短く応じた。
「長女だ。それがどうした」
「そう……。それを聞いて、安心したわ」
 イリスは素早く左に身をかわし、同時に両手に加える力の向きを、上から右に転じた。正横からの力が加わって、刀は正面に捉えていたイリスの姿を失する。イリスはナイフを刀に滑らせながら、一気に距離を詰めた。翔鶴の長い刀は、この素早い動きに追随出来ない。
 翔鶴は咄嗟に大刀を捨て、脇差を掴んだ。イリスの短刀が翔鶴の心臓を貫く直前、こぼれるような眩さを放って抜かれた脇差が、それを防ぐ。正面から渾身の刺突を受けた脇差が欠け、汗で滑ったイリスの短刀は弾かれて宙を舞う。
 イリスは身を屈め、刺突の反動を利用して後ろへ飛び下がると、投擲用の小刀を抜き、柔らかい身体をバネのようにして、再び地を蹴った。
 確かに、武器は必需品ではあった。しかし、イリスにとってそれは補助的なものに過ぎない。そこが翔鶴や瑞鶴たち、日本の神々との決定的相違点だった。
 イリスは逆手に握った小刀を翔鶴の右太腿に突き刺す。翔鶴は少しだけ頬の筋肉を動かしたが、声は漏らさなかった。漏らしたとしても、イリスには聞こえなかった。
 ほんの半瞬遅れを取った翔鶴は、しかし最後に残された反撃の機会を逃さない。互いの鼓動が聞こえようかというほどの近距離。刀を使えない翔鶴は、腰を落とすと同時に肘を前に出し、利き足の左足で地面を蹴ると、イリスの喉元に肘鉄を見舞う。
 思いがけない反撃を急所に受けて、イリスは喉を押さえ、地面に膝をつく。その隙に翔鶴は闇を広げ、姿を隠す。太腿に突き刺さっていた小刀がその場に残されたのを見て、相手が退いたことを知る。
 夜明けが、近い。徐々に白み始めた空の色を見て、イリスは焦燥に駆られた。
『一刻も早くあいつに会わなくちゃ。ここで会わなかったら、私は二度と、あいつを描けなくなるかもしれない』
 戦時下での「明日」という言葉は、平時の何百倍も、不確かな言葉でしかない。次に会う場所は、地獄かもしれないのだ。
「――急ごう」
 噛み締めるように声に出すと、イリスは地に手を突いて立ち上がり、短刀と小刀を拾い上げた。酸素不足で、視野は霞がかっている。

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 試されている、という気がして、つい安請け合い。
 そんな事の繰り返しで、ここ十年くらい来たような気がするね。
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F-104J




 HMS Vanguard
「『今週の』って、これで二日連続じゃないの」



 HIJMS 大淀
「誰が第一週目終了と言ったのですか? 二回とも『今週』の中に入っていると考えるのが当然でしょう」



「やぁねえ。また詭弁だわ」








「今回は日本の空軍力についての紹介です。
 まぁ、この日本にはまだ独立した空軍という組織はありませんが」



「原始時代以下ね」



「その航空戦力はいまだに陸海軍が二分して保有しており、ただでさえ少ない生産ラインを取り合うほか、海外機をライセンス生産する場合も、陸海軍で別々にライセンス料金を支払っています」



「帝国時代から改善されたところはないの?」



「強いて言うなら、外国の戦闘機をライセンス生産するようになったところ、ぐらいでしょうか。
 戦前の航空王国日本の姿は影も形もなく、戦闘機はアメリカから、攻撃機はフランスからそれぞれ購入しています。主力戦闘機はF-5Aですが、これは既に旧式化しつつあり、それよりも更に古いF-104が全体の六割を占めます」



「あれ? 冷戦時代の戦闘機モノといえばF-4とMiG-21じゃないの?」



「当時のハイテク技術をふんだんに盛り込んだF-4は高価で、とても買えないのです。そこでF-5Aの登場となるのですが、これは『貧者の万能戦闘機』と呼ばれる輸出戦闘機のベストセラーで、東アジアではタイや韓国、台湾などが使っていました
 攻撃機はのちにフォークランド紛争で武功を挙げるシュペルエタンダールが中心で、開戦時日本は八十機のエタンダール攻撃機を持っていました。が、その大半は開戦初日の攻撃で破壊されてしまいます」



「そんなんで勝算はあるの?」



「はい。そこで汎用大型ヘリ『きたかぜ』が登場します」



Mi-8(ソ連)




「相変わらず、『画像はイメージです』というやつね」



「気にしてはいけません。
 きたかぜは元々、民間の輸送用ヘリとして開発された機体ですが、
 陸軍がこの機体の軍事的利用に興味を示し、輸送用を『Ⅰ型』重火力型を『Ⅱ型』として採用。海軍もこれに続き、きたかぜ装備部隊は高価な固定翼機に代わって、開戦時には日本の主力戦力と言ってもいいほど増強されていました」



「日本人の代用食好きは常軌を逸してるわ。……ところで大淀、その命名なんだけど」



「私は、なにも、知りません」
Category :  ミリタリ
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 HMS Vanguard
「……で、今度は何よ」



 HIJMS 大淀
「『ダサい』『つまらん』『やめろ』など、各方面から大絶賛を受けている新作『清算』に出てくる兵器の類をここで解説しよう、というコーナーです」



「ふうん。それじゃ『空母戦争』のほうはどうなるの?」



「………?」



「な、なんという事。屈指の記憶力を誇る大淀でさえその存在を忘れ去ってしまうなんて。このブログは、もう、終わりだわ」












「まず、第一部に登場した日本の空母『朱雀』」



「ちょっと大淀、そのまま話を続けるつもり?」



「……? 何か問題でも」



「どこからどう見れば、これが『原子力空母』に見えるのよ! 完全に大鳳じゃないの!」



「ヴァンガード。アイコンが存在しないのですから、近いところから持ってくるほかないでしょう」



「七十年代といえばキティ・ホークやエンタープライズだっているはずよ。こんなのが近いと言えるの?」



「はい。『朱雀』は終戦によって建造中止となった空母大鳳を拡大・発展させた航空母艦です。米国で言えばミッドウェイ型航空母艦に相当する艦といえます」



「ミッドウェイは一九四五年就役なのだけど、そんなのが最新鋭なの?」



「なにしろ、三十年間空母を造っていませんでしたから。それに同時期のフランス空母、クレマンソーもエセックスを元にした艦といわれています。まぁ、あれは三万トン程度の艦ですが」



「『朱雀』は九万トン? エンタープライズよりも重いわよ、これって」



「三十年間、空母を造っていませんでしたから」



「既にロストテクノロジーの部類なのね……」



「そのうえ、まったく役に立ちませんでしたね。もう二度と出てくることはないでしょう」



「なるほど。びっくりドッキリメカだわ」
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