革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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Category :  橘家の一族
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 学校の帰りだった。夏休みだが、剣道部の練習がある。
 途中、書店に寄り道した橘凛は、夏用の白いセーラー服のまま、時代小説コーナーの前で文庫を立読みしていた。剣道具は床に置いてある。
 突然、隣に居た二人の客が口論を始めた。
「でも、靖国神社にはA級戦犯も合祀されているでしょ。それはどうなるの」
 四角い眼鏡をかけた白髪の老人が言う。色あせた水色のワイシャツは襟がくたびれ、歪んでいる。
「それは物事の本質とかかわりがない。日本国の首相が、かつて日本のために戦った英霊に、哀悼の誠を捧げる。これに意義があるんだよ」
 相手も老人だった。こちらは眼鏡はかけていない。背が低く、反対に声や身振りが大きい。容貌はどこか河童を思わせる。
「そんなことは聞いちゃいない。たとえば徴兵されてサイパンかなんかで玉砕した兵隊と、東條英機を、一緒にしていいのかということだ」
 凛は、既に荷物ごとコーナーの端っこのほうに逃げているが、二人はなおも口論をやめない。やめるどころか、ますます白熱しつつある。
「戦死した英霊を祭るのにさえ外国の顔色を窺うなんて、そんな独立国はないよ、あんた。英霊もそんな日本のために命を捧げたつもりはないはずだ」
「いいえ、過去のことよりも現在のことを考えるべきですよ。日本の首相が参拝することに、不快感を表す国もある」
 やがて、店員が騒ぎに気が付き、駆けつけてきた。
「困ります、お客様」
 すると、小男の側がぎょろりと目を剥いた。
「なにぃ。何が困る」
 店員は凛のほうをちらと見て、
「他のお客様のご迷惑になりますから、もうすこしお声を小さく」
「俺たちは国事を論じているんだぞ」
 眼鏡の老人が怒号した。
「そうだ。何も分からん若造が邪魔するな」
 小男もここへ来て初めて相手に同調し、口を揃えた。
 店員は対応に困って一旦店の奥へ行き、店長を伴って戻ってきた。
「ここでは他のお客様もおりますから、どうぞ、事務所のほうへ」
 店長はそう言って二人を招いた。
 老人はそれに従い、凛はその後姿を黙って見送った。
 そうして、二人は二度とそこから出てくることはなかった。



 




テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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