革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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Category :  小説
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 寺島豊兵曹長は、帝国海軍のメシをもう十五年も食っている。十七歳で海軍を志願し、その後術科学校を出て、下士官となった。
 しかし彼の長い奉職人生も、間もなく終わろうとしている。彼はこの鬱蒼たるビアク島のジャングルで、海軍陸戦隊員として死ぬのだ。帝国海軍のメシももうなく、泥水を飲んで飢渇をごまかしている。
 既に米軍が上陸して二ヶ月が経過していた。日本軍の死力を尽くした抵抗もほぼ終わり、司令部との連絡は一週間も前から、途絶えている。
 その日寺島は三八式歩兵銃を握り、分隊士の阿武中尉と一緒に、地形視察に来ていた。陰々とした砲声がひっきりなしに聞こえるが、まだ遠い。
 密林の中にちょっとした河原があった。
 阿武中尉以下十数名に課せられた任務は、この小川を固守することである。
 戦況の推移に伴い、既にまったく意味のない部隊配置となっているが、勝手に持ち場を変更する権限は阿武中尉にはない。配置転換を促すため、寺島が司令部に向けて出した伝令も、一向に戻ってくる気配はなかった。
「この地形は、桶狭間に似ているね」
 中尉は出し抜けに言った。無論桶狭間にジャングルはないし、川もない。梅毒の微熱が中尉に幻を見せている。
 戦闘を間近にした緊張がそうさせるものか、中尉はこの頃特に奇行が目立つようになっていた。
「そう思わんか? 曹長」
 黙っていると、中尉は生気のない土色の顔を寺島に向けた。その反面、双眸はガラス球のように光っている。
「自分は桶狭間を見たことがありませんので、何とも言えません」
 寺島は、本当は「似ても似つかない地形です」と答えたかったが、神経過敏に陥っている中尉を刺激してもろくなことにならないことは明白だったため、そのように答えた。
「似ているんだよ。桶狭間に」
 中尉はその後も、「似ている、似ている」と呟き続けた。
 やがて中尉は自身を信長だと思うようになり――中尉の信長ごっこは、彼が寺島に射殺されるまで続いた。



 




テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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