革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 ――この映画に描かれているような事故は
 絶対に起こりえないと、大日本帝国海軍は保証する。
 またここに登場する人物は、すべて架空で
 実在の人物との関連は、少しもない。



「空母『大鳳』よりマル哨四号へ。電探上に未確認飛行物体あり。これより該当情報を送る。待機せよ。3、2、1……送った。どうぞ?」
『こちらマル哨四号。情報を無事受け取った』
「『大鳳』了解。命令。マル哨四号は直ちに現場空域に向かい、その機種を特定、報告せよ。命令終わり。復誦よし」
『マル哨四号了解。終わり』
 飛行長はレシーバーのマイクを元に戻すと、草色の略帽を鷲掴みに取って、それで頭を拭った。じっとりと汗をかいている。
 開け放しの艦橋の窓から飛行甲板を見下ろすと、直掩の烈風三二型が、RATOの雷鳴と共に離艦していくところであった。
「米軍機でしょうかね、艦長」
 飛行長は背後の江草隆重艦長に振り返って、その所存を訊いてみた。
「……さぁ、わからんな。その可能性は低いと思うが、皆無ではない」
 江草も飛行長同様、緊張した面持ちで座っている。彼は、パイロット時代の軍歴のほうが遥かに長い、搭乗員上がりの空母艦長なので、部下の飛行隊に任せきりという時間が元々辛抱ならない。
「江草君、何かあったようだな。どうした?」
 そのとき、艦隊司令長官の樋端久利雄中将が艦橋に姿を現した。江草は椅子から立ち、情況を説明する。
「はい提督。未確認機の反応が電探上にありましたので、目下、機種の確認を行っているところです」
「米軍機か」
「なんとも言えませんが、速度から見て戦闘機や攻撃機ではありません。哨戒機か、あるいは民間機かも」
 樋端は眉をひそめた。
「民間機? どうやって艦隊の位置を知ったんだ?」
「さぁ。しかし連中は折り紙つきの地獄耳ですから、我が軍の無線を傍受して辿って来たのかも」
「ふむ……」
 樋端は綺麗に剃った顎を撫でてすこし考え、それから江草に言った。
「撃ち落すわけにもいかん、すぐ追い返せ。どっちの場合でも」
「了解しました」
 江草は頷いた。


 日本海軍厚木航空基地の官舎では、参謀長の近江大佐が、顔に本をかぶせ、長椅子に寝そべっていた。つけっ放しのラジオからは、年老いたアナウンサーの長閑な声が聞こえる。
『……番組内容を変更致しまして、特別放送をお送りしております。先ほどから繰り返しお伝えしておりますとおり、米国は今月一日、帝国に対して示した妥協案に従いまして、内南洋グアム島に配備した核爆弾の撤去を、えぇ、開始したとのことで、このことは――あっ、暫くお待ちください。……いま、わが移動中継機が、展開中の聯合艦隊と、えぇ、接触したとのことですので。それでは現場の西田さん、どうぞ』
『はい、こちらは内南洋上空。マリアナ沖最前線であります』
『すみません西田さん、もうすこし大きな声でね、お願いしますよ』
 その前に近江はダイヤルを回して、ラジオ自体の音量を上げている。
『西田さん、一時は両軍の機動部隊が対峙して、一触即発という状態だったそうですが、いまはどうですか』
『はい。現在はそのような緊迫感はあまり見受けられません。旗艦「大鳳」以下のわが機動部隊は、全艦粛々と、内地にむけ針路を取っております』
『それは、つまり聯合艦隊による臨検は事実上終了したと見てよいのでしょうか?』
『そのように見受けられます。一日の日米妥協案では、解体した水爆は米国海軍によって本国へ護送すると定められてありますから、わが聯合艦隊も協定を遵守したということではないでしょうか。……あ、まずい! 戦闘機だ』
『え、西田さん? 西田さん? ……えぇ、どうやら通信状態がよくないようであります。また連絡が入り次第、お伝えします』
 近江は長椅子から起き上がり、大きく背伸びをすると、真空管ラジオの電源を切った。それと入れ替わりに、今度は電話機が鳴る。
「もしもし、参謀長の近江ですが」
 受話器を取ると、そこからくぐもったひくい声が聞こえてきた。
『わしだ』
 第三〇二航空艦隊司令長官の小園安名中将である。
「ああ、長官ですか。いま書類の整理をしていたところなんですよ」
 近江は平気な顔をして言った。
 もっとも、小園はそのようなことは深く追及しない。
『君のほかに、そこに誰かいるか』
 代わりに、そんなことを訊いた。
「私だけです」
『盗聴されているか。部屋に盗聴器は』
「はぁ。多分ないと思いますが」
『多分では困る。いまから機密命令を伝える』
「機密? なんです」
 近江は眉間を寄せた。鉛筆を取り、卓上のメモ用紙を取る。
『国家的機密事項だ』
「伺います」
『アメリカに対し原爆攻撃をかける』
 近江は、鉛筆を元に戻した。椅子に腰を降ろし、机に足を置く。
「それはいいですね、長官。みんなが張り切りますよ」
『ついては、君に次の任を与える。まず、敵の謀略放送による混乱を防ぐため、基地内のすべてのラジオの没収。外線用電話線の切断。無線室の隔離』
「ほう、本格的ですな」
 近江は小園の熱の入れ方に感心した。もっとも電話線はあとで復旧に手間がかかりそうではある。
『当然だ参謀長。直ちに実行、報告せよ』
「分かりました」
 近江は受話器を置き、紺のネクタイを締め直して、略帽を被りながら官舎を出た。出たとき、基地のサイレンが三度続けて鳴った。それに続いて、スピーカーから小園の声が聞こえる。
『みな聞け。わしは艦隊司令長官の小園だ』
 その声を、海軍厚木航空基地・三〇二航空艦隊の将兵たちは、そのとき各自のいた場所で――即ち、指令所で、格納庫で、待機室で、滑走路で、酒保で、食堂で、便所で聞いた。
『当基地は、たったいま戦闘準備態勢に入った。いよいよみなの揺るぎない忠誠心、愛国心が、国家から試されるときが来たのだ』
 近江も、立ち止まってスピーカーを見上げ、小園の言葉を聞いている。
『これに従い、わしは長官として次のことを命ずる。敵の反撃に備えるため、当基地のすべての門を閉鎖。基地守備隊は速やかに防御陣地を構築し、絶対にこれを死守すべし。手空きの者は積極的にこれに参加、応援すべし』
「急げっ! もたもたするな!」
 すでに連絡がいっていたのか、リヤカーに土嚢を満載した警備隊が、近江の背後を土煙をあげて走っていった。
『白人が如何に狡猾な人種であるか、米軍が如何に卑劣きわまる集団であるかは、みなもよく聞いて、知っていることだと思う。だから、敵が友軍の格好をして攻めて来ることも、十二分に考えられる。基地の二百メートル以内に近付くものは、全部撃て。動くものはすべて敵だと思い、油断はこれを厳に戒めよ』
 正面ゲートの四重の門が、重々しい音を立てて閉められる。タイヤをパンクさせる剣歯が並べられ、機関銃に弾が詰め込まれていく。
『皇国の興廃この一戦にあり。各自がそれぞれの持ち場で最善を尽くし、奮闘することを期待する。これは訓練ではない。以上』
 振り返ると、指令所の旗台にするするとZ旗が揚がりつつあった。近江は何気なく、腕時計を確認する。
 時に1955年8月15日正午――。かくて日本のいちばん長い日が始まった。



 




コメント


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*ようこそ、トラブルシューター。*

Computer:
 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

 市民の幸福は、コメントを書き、Computer に奉仕することです。
 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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