革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 海軍省
(PM.12:30)

「バカモン! 貴様ら階段を並んで歩く海軍軍人がどこにいる! このボンクラどもが! 端に寄ってきびきび歩かんかいっ!」
 海軍次官の大井篤中将は、前を歩く佐官や尉官たちを次々と壁に突き飛ばし、肩を怒らせながら、海軍省の狭く曲がりくねった階段を昇っていった。そうして靴音荒々しく、大井は大臣室の前で立ち止まる。
「海相! 海軍次官・大井篤、入ります!」
「入れ」
 短く返した大臣室の主は、貝塚武男大将である。海兵46期卒で、同期の猪口敏平GF長官、一期先輩の兄部勇次軍令部総長らと共に、海軍三顕職をなしている。
 そのとき貝塚は、黒表紙の書類綴を綺麗に束ねなおし、改めて書棚に収めているところだった。
 そこへ、大井が入ってくる。
 大井は頭の略帽をむしり取り、踵を音高く鳴らして、すっと腰を折った。大井の強張った表情、眼差しを見て、貝塚は無意識に手を止める。
「何事だ、大井君」
「はっ、大変であります。その、」
 大井は唾を飲み下して、言った。
「厚木の小園中将が……麾下の爆撃隊に核攻撃を命じたらしいという情報が」
「何ーッ!?」
 貝塚は大井に顔を向けたまま、黒表紙を床に叩き付けた。
「誰の命令だ、そりゃぁ!」
「わかりませんが、恐らく小園中将の独断です。厚木にそのようなばかげた命令が下達された形跡は見つかりません」
 貝塚は何か言おうとして、その途中で、自分で床にぶちまけてしまった書類綴に目を落とした。貝塚はその残骸を急いで拾い集め、とりあえず机の上に置いた。
「独断だと……? 畏れ多くも陛下の皇軍を、私したというのか。小園が」
「そうです」
「許さん!」
 貝塚は掌で机を叩いて言った。普段温厚な彼にとっては珍しいが、この反応はまともな思考能力を有する軍人なら当然のものであったろう。部下が叛乱を起こし、しかも全面戦争を起こそうとしているのだ。
 貝塚は引き出しから拳銃を取り出してホルスターに収め、略帽を取った。
「大臣! どうなさるんです」
 大井は驚いて訊ねた。
「俺が直接出向いて、小園を説き伏せる」
「いけません大臣! まだ基地内の様子がよく分かりません。危険過ぎます」
 大井は扉の前に立って、貝塚に言った。
「なら厚木との連絡はどうなっている。何が起こっているのか、すぐ小園に照会しろ」
「無理です。現在厚木とは連絡が取れません」
「なぜだ!」
「それが――」
 大井は一瞬戸惑い、それから意を決して、貝塚に答えた。
「電話線が全部! 切断されているらしくて」
「……ああ」
 貝塚はよろよろと自分の席に戻り、腰を降ろすと、震える手で煙草に火をつけ、それを半分も吸わないうちに灰皿に押し付けた。略帽を握り締め、それを苦悶に歪む顔に押し当てて、背もたれに大きくもたれかかる。
「大臣……。大臣、大丈夫ですか」
「いや、頭が変になりそうだよ」
 貝塚はそう言って長い溜息をつくと、身体を起こし、机の上で掌を組んだ。
「大井君、直ちに首相に連絡。臨時閣議の開催を要請しなさい。大至急」
「はい!」
 大井はまた踵を鳴らして、背筋を伸ばした。大井は部屋から出、室の扉を閉める。


 一方、厚木基地では既に臨戦態勢を整えている。
 二十機の富嶽が駐機場と滑走路に並び、一機につき六発のレシプロエンジンを回している。
 その轟音のため、周囲の人声などは断片的な音としてしか聞き取れないが、それでも基地の将兵はみな、忙しく立ち回っていた。特に小園は下士官兵たちに大変な人気があったから、彼らの意気軒昂ぶりは、殆ど狂気じみたところがあった。
「気を付け、かしら中! 長官に対し敬礼。……直れ!」
 小園に命じられ、近江は指令所に第三〇二航空艦隊の参謀たちを集めていた。小園はもどかしげに答礼を払い、訓辞を始める。小園はネクタイを締めず、ワイシャツの襟を上に出している。
「諸君! 我々はついに、この歴史的任務をまっとうする時を迎えた。対米開戦という国家存亡の非常事態に立ち至って、それぞれに不安もあろうが、この上は上下一糸も乱れず、軍紀を保ち、大御心に従って突き進むのみである」
 指令所といっても、そこは掘っ立て小屋のようなものだが、窓がひとつだけある。その開け放しの窓の向こうでは、富嶽に積み込むための原爆が運ばれていくところだった。
 巨大な原爆が、縄で台車に括り付けられ、それを大勢で、掛け声をあげながら、少しずつ引っ張っていく。
 富嶽のプロペラが巻き上げる砂塵で、外は砂嵐のようだった。
「皇国無窮の安寧を確立すべき時は今だ。今こそ、敵の謀略を破砕し、外醜に対し皇室を守護し奉るべし。我々はこの聖戦の」
「長官! 質問があります」
 小園の言葉を途中で遮って、近江が挙手をした。暑いので、近江は両袖を肘の上までまくっている。
「なんだ、参謀長」
「一応確認しておきたいのですが、これは訓練でしょうな」
 小園は首を振って答えた。
「いや、本物の戦争だ」
「しかし、今月十日に軍令部から下達された命令によれば、日米交渉は完全に妥結し、そのため開戦準備態勢を解く、とあります。ですからその……原爆でアメリカを攻撃することは、もしかしたら海軍中央の命令に反するのではないでしょうか」
 すると、小園は一瞬目をしばたき、次いで、豪快に近江を笑い飛ばした。
「参謀長!」
 小園は強い力で近江の肩を掴み、笑いながら言った。
「そんなことは有り得ないよ」
「はっ……」
 その言葉で、近江は安心した。やはり、本当に戦争を起こすわけではないのか。
 そうすると、そんな当たり前のことを真剣に訊ねてしまった自分を、近江は急に馬鹿みたいに思った。
「やはりそうですか、長官」
 近江がすこし笑い返すと、小園は大きく頷いて、
「うん! そんな命令は、あっても意味がない!」
 と言った。
「――え?」
 近江は、またすっと真顔に戻る。
「腰抜けの重臣どもが、どれほど恥晒しなことを決めようと、俺には関係がない! 見ろ、参謀長」
 小園は窓の外に目をやった。
 巨人機・富嶽が翼を並べて、出撃命令を待っている。
「鍛えに鍛えて温存してきた新鋭機だ……。こいつでアメリカの都市をでかい順にぶっ潰す! ――いや」
 小園は顔を上げ、正面から近江を見据える。
「参謀長、日米交渉が本当に纏まるのは、この時でな」
 そうして、小園はにやりとした。



 




テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

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 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
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 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
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