革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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Category :  小説
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「機長より全員へ。これより最終点検を行う。各員報告せよ」
 第八四三飛行隊の飛行隊長であり、自ら一番機の機長をも務める三田村少佐は、傍らから伝声管を引き寄せ、声を吹き込んだ。
 現在彼の富嶽一番機はタキシングを終え、滑走路に待機している。
『燃料系異常なし』
『電力異常なし』
『通信機、送受信ともに異常ありません』
 配置に就く部下たちから、次々と応答が帰ってくる。それらはいずれも快い答えで、三田村は地上員の日々の仕事ぶりに感謝をした。
「よし。副操」
「はい」
 隣席の副操縦士・御殿谷中尉が信号装置を取り出し、「ワレ離陸準備完了」と送信する。すると間もなく指揮所から、同じようにチカチカと発光信号が返ってきた。色とりどりの信号旗が翻る指揮所は、その丸太組みのつくりと相まって、戦国時代の櫓を想起させる。
「機長、指揮所より返信。離陸を許可する」
「了解」
 三田村は風防の窓を一箇所だけ開け、指令所に向かって敬礼した。そこでは小園と、それよりすこし背の高い参謀らしい人物が二人で立ち、こちらを見ている。
「長官! 三田村少佐以下十五名、行って参ります!」
 その三田村の声は、忽ち六基のハ-50三千馬力エンジンが挙げる轟音によってかき消されてしまったが、それでも小園は、ピシッと音のするような見事な答礼を、三田村たち乗員に送って寄越した。
「よし行くぞ! ちょっとした長旅だ!」
 三田村は窓を閉め、整備員たちから受け取った日の丸鉢巻を締めると、そう言って気合を入れ直した。
 ブレーキペダルを踏む力を徐々に弱めていくと、全長46メートル、最大幅63メートルの巨人機が、徐々に動き出す。
「帽振れーッ!」
 滑走路脇に集まった見送りの地上員が、号令一下、一斉にバタバタと帽子を振り始める。中には巨大な日章旗を持ち、機体を追いかけてくる者もあった。
 機が順調に滑り出したことを確認した三田村は、そこからゆっくりと、六本のスロットルレバーを前に倒していった。エンジンの唸り声が俄然大きくなり、速度が上がっていく。
 またそれと平行して機の振動も激しくなり、三田村と御殿谷は操縦席に押し付けられたまま、上下に激しく揺さぶられた。
 そのまま三田村は、エンジンの出力を最大まで上げる。速度と振動のため、外の風景は曲がりくねった光の線にしか見えない。
「機長、ロケット点火の許可を願います」
 速度が上がったのを見て、御殿谷が言った。富嶽はその重量の割りに推力が不足で、そのためRATO(ロケット補助離陸装置)を使用しなければ離陸することが出来ない。
「宜しい。ロケット点火を許可する」
「了解」
 三田村の許可を得て、御殿谷は計器盤の上のスイッチを次々と跳ね上げていく。
 次の瞬間、両翼合計四本の巨大なロケットが、まばゆい閃光を放った。
 凄まじい噴流が巻き起こり、滑走路の遥か後方に建っていた牛小屋が、跡形もなく吹き飛ぶ。離陸を見送っていた人間も、何人かが衝撃波を受けて弾き飛ばされた。基地にあったガラス窓は、全部、粉々になった。
 それでも、機体はまだ飛び上がらない。
 もう滑走路の端が、すぐそこに見えてきた。
「飛べ!」
 猛スピードで迫ってくるオーバーラン防止用の土嚢の山を見ながら、三田村は叫んだ。
「飛んでくれっ!」
 そのとき、不意に振動が和らいだ。機が、ついに地上を離れたのだ。
 三田村は操縦ハンドルを思い切り引き起こしたい気持ちを押さえ込み、代わりに間髪入れず主脚を収納した。富嶽の巨体が土嚢の上を掠め飛び、ロケットの後流で山が吹き飛ぶ。
 機は基地のフェンスの上を越えた。それでも三田村はハンドルを引き起こさない。強引に機首を起こそうとすれば、忽ち失速を起こす。
 夏休みで、蜻蛉を取っていた小学生たちの頭の上を、三田村の富嶽は轟音を上げて飛び去っていった。
 白フチが付いた鮮明な日の丸マークどころか、パイロットの目の色まで分かる低高度だ。
「すンげえ!」
 思わず虫かごを放り投げて、男の子の一人が叫ぶ。
「でっけぇなあ」
 もう一人も目を輝かせて、海のほうへ去っていく富嶽の後姿を見ている。
「わたし知ってるよ。あれ富嶽って言うんだって」
 すると女の子が、麦藁帽子を片手で押さえて、得意げに言った。
「ふがくぅ?」
「なんだそりゃ」
 二人の男の子たちは口々に訊いた。
「富嶽はね、太平洋の上をずーっと飛んで行ってね、そうしてアメリカまで飛んで行ってね、ワシントンやニューヨークに原爆を落とすんだって。お兄ちゃんの部屋にポスターあるもん」
「へぇー! アメ公やっつけんのか!?」
「うん、アメ公やっつけるよ」
「バンザーイ!」
 そうして三人の小学生たちは、それぞれ手を振り、帽子を振り、富嶽の壮途に「がんばれ!」と声援を送った。
 すると、富嶽がその長い両翼を上下に動かしたので、三人は富嶽が答えてくれたと思い、また歓声を挙げた。もっとも、これは上昇気流が富嶽の機体を揺らしたに過ぎない。


 首相官邸
(PM.13:30)

 同じ頃。東京の首相官邸では、貝塚の要請を受け、臨時閣議が召集されていた。
「これだけかね?」
 首相の石橋湛山は、閣議室に参集した閣僚たちの顔ぶれを見て、戸惑いを露にした。国務大臣が殆ど揃っていない。
 そのことは、官房長官の石田博英が説明した。
「法務大臣は北海道、文部大臣は箱根、厚生大臣は草津、運輸大臣は熱海、労働大臣はホノルル……」
「もういい。つまり、みんな旅行中というわけだな」
「はぁ。なにしろお盆ですからな。ですが、陸相、海相、外相、大蔵相は出席、他の閣僚も次官は出席です」
「分かった。まったく、この非常事態に」
 石橋は眼鏡を拭いてそれを掛け直し、掌を組んで言った。
「海相」
「はい」
 軍服姿で出席している貝塚が答える。
「私はまったく解せない。核攻撃を命令出来るのは、内閣だけだと思っていた」
「えぇ……。それは、勿論内閣だけの権限です」
 貝塚は眉間に皺を寄せ、頭をすこし掻いて言った。
「だが実際には君の部下が、爆撃機に核攻撃を命令した。畏れ多くも陛下の皇軍を、内閣の指示もなく、勝手に動かした。適切な説明の必要を感じる」
「源田君」
 貝塚は隣席の源田実中将に合図した。源田は立ち上がり、一同を見回す。
「総理。海軍航空総司令部次長、源田実です。実は正午ちょっと前の11:42分、厚木基地の小園中将から直接、電話がありました」
「本当かね」
 石橋が訊いた。源田は頷く。
「受け付けた者が通話記録を残してあります。読みますか?」
「頼む」
 源田は胸ポケットから眼鏡を取り出し、服の裾で拭いて掛けた。次に彼は懐からメモ用紙を出す。
「あぁ……。まず、係の者が電話に出ます。『もしもし、航空総司令部です』」
「要点を絞って頼む」
「勿論です総理。えぇと……すると小園中将は電話係に対して言いました。『アメリカ人を原爆で皆殺しにする。もはや後戻りは出来ん』」
「それで?」
 源田は続けて、メモを読み進めていく。
「『まず手始めに、わしの部下たちが400トンの核を投下する。直ちに全部隊を出撃させろ。さもなくば敵の報復で全滅だ』」
 貝塚は唇を歪め、険しい表情で聞いている。
「『我々の命、健康を守り、地球を守らなければならない』。……で、切れた」
 源田はメモを折り畳み、懐にしまった。
「現在、地球とは何を意味するのかを調査中です」
「ふん。分かりきったことだ。そいつは気が違っているのだろ」
 外相の岸信介が言った。現実主義的な親米派の旗頭で、自主独立路線を保とうとする石橋湛山とは対立関係にある。
「外相、即断は禁物です。それより、今後の対策を取り決めませんと」
「対策?」
 源田が岸をたしなめると、石橋が怪訝な顔をした。
「出撃した爆撃機に引き返しを命じればいいだけじゃないのかね。司令官の小園は狂気に取り付かれ、叛乱を起こしたと」
「それが出来ないのです」
 源田が答えようとしたのを貝塚が手で制し、それからは彼が会話を引き継いだ。
「どうしてです? 海相」
「はい。奇襲攻撃を前提とした作戦では、爆撃機は全機、無線封止に入ります。従って作戦を完了するまで、通常の方法では交信は一切取れません」
 石橋は動きを止めたまま、目だけをぱちぱちさせ、暫く沈黙した。交信が取れないということは、爆撃機はこのまま核攻撃任務を続行してしまうではないか。
 みなも一様に黙り込み、閣議室を奇妙な静寂が満たした。
「で、では」
 石橋は気を取り直して、貝塚に訊ねる。
「爆撃機を引き返させることは、出来ないというのかね?」
「いえ総理。方法はまだあります。無線封止解除の暗号を打つことです。ですが、この暗号は小園しか知りませんから、まずは小園の身柄を確保する必要があります」
「強行突破か……」
 石橋はその広い額を撫で回した。
 彼は迷っている。強行突破を試みれば、皇軍同士が相打つことになるのだ。
「残念ですがそれ以外には手はありません。既に横須賀の陸戦隊に出動準備命令を下してあります」
 貝塚は静かにそう言って、石橋に決断を促した。石橋は眼鏡を取り、目頭を揉んで言った。
「分かりました。海相、やりなさい」
「はい」
 時計の針が二時を指し示した。当初の作戦計画通りなら、あと十六時間ほどでサンフランシスコに核が投下されるはずだ。



 




テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

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*ようこそ、トラブルシューター。*

Computer:
 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

 市民の幸福は、コメントを書き、Computer に奉仕することです。
 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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