革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 北部軍管区
(PM.14:30)

 北海道・旭川に司令部を置く北部軍管区では、据え置きの電話機が一時間ほど前から頻繁に鳴り始め、二時半を回った現在では、交換手の手が休まる暇もないほどの有様となっていた。電話のけたたましい呼び出し音は、いまやすっかりこの北方鎮台の背景音楽と化している。
『襟裳岬電探所より、不明機の続報あり。注意せよ』
 防空指揮所のスピーカーが、連絡員のゆっくりとした声を吐き出した。薄暗い指揮所内は大学の講堂ほどの大きさがある。中央のテーブルには巨大な作戦図が張り出され、そこにだけスポットライトが当てられている。
『先に感知せる大型機は、高度一〇〇(一万メートル)、約二七〇ノット(時速五〇〇キロ)にて、その針路プラス〇・二・〇。機数一。なお進行中』
 図上の不明機のマーカーが動かされる。その続報を聞いた指揮所内の士官たちは、困惑を隠しきれない様子だった。高高度を大型機が侵入してくる。しかも南方から、単機で……。
「おい、嫌な予感がしないか。B-36かもしれない」
 一段高まったところから作戦図の動きを眺めていた田中司令官が、参謀長に言った。
「まさか」
 参謀長は眉を動かして驚いたが、田中のほうは一度湧いたその存念を振り払えない。長年、核爆撃機邀撃を任務としてやって来た仁である。
「いや、参謀長。有り得ないとは言い切れないぞ。アメリカ人のことだ、まだグアムに水爆を隠し持っている可能性はある。ドカンと来てからじゃ遅いぞ」
「それはまぁ、そうですが」
 そのとき、卓の上の電話が鳴った。田中が自ら受話器を取る。
「司令官だ。どうしたか」
『閣下、東京の参謀本部からお電話であります』
「そうか。よし、繋いでくれ」
 長い接続音。やがてそれが途切れ、電話が繋がる。
「北部軍司令官の田中中将だ。そちらの官姓名を名乗れ」
『瀬島だ』
 その一言で、田中には充分だった。田中は思わず椅子から立ち上がり、背筋を伸ばし、踵を合わせる。「はっ! これは次長閣下……」
 陸軍参謀次長・瀬島龍三中将である。次長といっても上官の参謀総長はお飾り同然で、実質的な命令はすべて瀬島が下している。
『宜しい。ところで先に報告のあった不明機の件だが』
「はい」
『それは米軍機ではない。海軍の重爆で、富嶽だ』
「友軍機ですか」
 田中は安心して、椅子に座り直した。だが瀬島は言う。
『友軍ではない。賊軍だ』
「どういうことなんです」
『これは極秘のことなんだが、実は海軍が叛乱を起こした。彼らは先の平和協定を欺瞞と称し、米国を核で攻撃すると言っている』
「なんですと!? 海軍が叛乱を」
『その通りだ。現在厚木では、東部軍が海軍と交戦中だ』
 瀬島は、あくまでも嘘はついていない。だがこの北部軍司令官は、当然ながら、日本が内戦状態に陥ったと思った。
「けしからん奴らだ! 次長、ここからなら程近いところに海軍の千歳基地があります。我々も攻撃して宜しいですか」
『いや、それは無用だ。それより一刻も早く原爆機を落とすように』
「了解しました」
 田中は受話器を元に戻すと、部下に向かって訊ねた。
「こちらの迎撃機がその不明機と接触するのは何分後だ!」
 すると階下の士官が、算盤を弾いて答える。
「あぁ……かなり大雑把な計算ですが、噴火湾上空を哨戒中の火龍改が、およそ三分後に接触します」
 田中は腕時計に目を落とし、そうして矢継ぎ早に命令した。
「よし、直ちに撃墜だ!」


 厚木基地を発した三田村少佐の富嶽は、そのまま太平洋を横断はせず、日本列島の太平洋岸に沿って、北へ進んでいた。北極圏を通り、グリーンランドの上空から一気に大西洋に出、そこからニューヨークを目指すルートである。
「おい青山、そんなに一生懸命機銃を磨いたって無駄だぜ。敵さんはジェットでやって来るんだからな」
 上部動力銃座の原田少尉が言った。相手の青山少尉の配置は同じく上部動力銃座だが、原田は前方、青山は後方の銃手である。
 二人とも、ごわごわした電熱服を着込み、背中に重いボンベを背負って、酸素マスクをつけている。潜水士もかくやという格好だが、与圧されていない爆撃機で対流圏界面を飛ぶということは、穴の空いた潜水艦で深海に潜るのに等しい。
「そんな、ご自分の存在を否定するようなことを言わなくても。それじゃ機銃が何のためにあるのか分からない」
「でも事実じゃねえか」
『原田、全部聞こえてるぞ。真面目に見張れ』
 ヘッドセットから、三田村少佐の叱声が響いた。後部キャビンと違ってコックピットは与圧されているので、少佐には亀の甲羅のような酸素ボンベも、マスクも必要ない。
「ちぇっ、畏くも三田村陛下様が天国でお怒りあそばされてらぁ。青山、その飴玉俺にもくれよ」
「いいですよ」
 原田は機内に張られたロープに掴まって青山のところまで行き、ハッカ味のする飴をひとつ受け取った。原田は酸素マスクを取り、急いで口に飴を放り込むと、すぐまた酸素マスクをつける。
「宇多、お前のとこは与圧されているが、一人で寂しくないか」
『……別に』
 答えたのは、尾部の三〇ミリ機関砲を扱う宇多少尉。尾部銃座は原田の言うとおり与圧キャビンだが、コックピットと違って、与圧時は他のキャビンと行き来することが出来ない。そのため、ニューヨークに核を落とすまでの二十八時間、彼はこの大所帯の中で常に一人である。
『うるさいのがいなくて助かるよ』
「なんだって? そりゃ、俺のことか」
『さぁ』
 宇多は寡黙な男だ。原田からは宇多の様子を伺うことは出来ないが、恐らく今でもあのばかでかい機関砲を構え、その筒先を黙って見つめているのに違いなかった。
 するとそのとき、電測士の半井中尉がマイクを取った。
「機長、移動物体を感知。十時の方向。同高度、速度約三〇〇ノット」


 移動物体は、陸軍の札幌飛行場を飛び立ち、通常の哨戒任務に就いていたジェット戦闘機・火龍改だった。ドイツから接収したMe262戦闘機のコピー機である。
「司令部の能無しめ、B-36だなんて脅かしやがる。海軍さんじゃないか」
 火龍改のパイロットは、大きく旋回して富嶽の巨体を眺めた。あくまでも長く幅広の主翼には、赤い日の丸が燦然と輝いている。
 火龍改のパイロットは富嶽のコックピットに機を横付け、バンクを送った。相手の搭乗員たちも手を振って応えている。
『札幌一番、目標を発見したか?』
 司令部から入電があった。パイロットは「豚め」と罵りたかったが、それを押さえて
「海軍の富嶽だ。そっちの勘違いだ」
 と答えた。
『札幌一番、……れが目標だ』
 そのとき、一瞬電波が乱れた。
「なんだ? 聞こえない、もう一度言ってくれ」
『目標は……原子爆弾……米国』
「だめだこのボロラジオ」
 彼は無線機の電源を切り、火龍改で富嶽のまわりをぐるりと旋回して見せた。富嶽のコックピットから、発光信号が送られてくる。
「貴機ノ見送リニ感謝ス。ワレ、誓ッテ堅敵ヲ撃滅セン……。堅敵って何のことだ? まぁいいや帰ろ」
 火龍改はその主翼を傾け、白い光点となって、北海道の蒼穹に消えていった。


「……というわけでありまして」
 田中大将は逸る胸を押さえ付けながら、電話口に立っていた。相手は参謀本部の瀬島である。
『では、富嶽は取り逃がしたのだね?』
「いえ、まだそうと決まったわけでもありません。ただいま根室の高射噴進砲大隊に迎撃命令を下すところであります。今度は間違いありません」
 すると瀬島は、すこしの間沈黙し
『いや、それはもういい』
 と言った。
「はっ……?」
『田中君。撃墜命令は取り下げる。その代わり、次のことを命じる』
「なんでしょう?」
 瀬島は答えた。
「全面戦争だよ」



 




テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

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*ようこそ、トラブルシューター。*

Computer:
 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

 市民の幸福は、コメントを書き、Computer に奉仕することです。
 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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