革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 小田急大和駅に降り立った海軍横須賀陸戦隊は、そのまま町内を駆け足で抜け、厚木飛行場に向かった。駅は既に先発の陸軍部隊が封鎖し、町民も避難していて、誰もいない。
 天を裂くような銃声は、汽車を降りた瞬間から絶え間なく聞こえている。基地に近付くにつれてそれは大きくなり、いまや耳を聾さんばかりの大騒ぎだ。
 その飛行場の数百メートル手前に、丸太作りの陣幕があった。先に突入を試みた東部軍第四機動歩兵中隊の指揮所である。
「海軍特別陸戦隊、大隊副官の橘だ。貴隊の中隊長、寺尾少佐殿はどこか」
 部隊に先行し、騎馬で乗りつけた橘楓大尉は、身のこなしも軽く馬を降りると、ちょうど指揮所から出てきた若い少尉を咄嗟に捕らえて、指揮官の居所を訊ねた。少尉の陸軍式敬礼に、楓は海軍流のそれで応じる。
「はい。中隊長は死亡されました。現在は第一小隊の小野原中尉どのが中隊の指揮を引き継いでおります」
「早まったな。我々の到着を待っていればよかったものを」
「それが、一刻も早く飛行場を確保せよとの師団命令でして」
 そのとき、正面ゲートのところで何かが閃き、直後、指揮所近くに止めてあったトラックが爆砕した。立ち上った土砂が崩れ、煙が晴れると、ゲートを守備する土嚢の中に、戦車が据えてあるのが見えた。双眼鏡で見ると、陸軍の五式中戦車らしい。
「驚いたな。厚木では戦車まで持っているのか?」
「いえ、あれは我々が持ってきたものです」
 楓は双眼鏡を降ろし、少尉を見る。
「どういうことだ」
「はぁ。つまり、盗まれたのです」
 少尉は、強行突破を試みた戦車が壕に落ち、敵が引き上げて使いだすまでのいきさつをつぶさに説明した。楓の顔色が目に見えて変わっていく。
 楓は、少尉に非がないと知りつつも、つい、彼を突き飛ばし、怒鳴りつけてしまった。
「この、能無しめ!」


 すぐ間近で間断ない銃撃音が聞こえ、火薬の匂いが強く鼻を刺激する。指令所の長官室の小窓から外を見ていた近江は、腕時計に目を落とした。もう四時に近い。
「長官――」
 近江が振り返ったとき、彼のすぐ鼻先を小銃弾が貫通して抜けていった。部屋に飾ってあった夜間戦闘機月光の絵が、額縁の紐を切られて傾く。
「気にすることはないよ参謀長。ただの流れ弾だ」
 小園はいつもの憮然とした表情で座り、煙草をくわえていた。煙の筋が扇風機の風にさらわれ、長くたなびく。
「長官」
 近江は気を取り直し、改めて言った。
「演習は、もうこのあたりで終了……、とすべきだと思います」
 小園は煙草を指で挟み、口から煙を吐き出した。無言のまま、続きを待っている。
「我々の爆撃機は、全機無事に飛び立ちましたし、これ以上演習を継続する必要はないかと」
「参謀長。わしは身体はたとえ地上にあろうとも、魂は今日飛び立った三百名の爆撃機搭乗員とともにある。すべての部下たちがその任務を完遂するまでは、わしは作戦終了の命令を下すことはない」
「しかし、長官! それでは爆撃隊は、本当にアメリカを攻撃してしまいます。そうなれば我が国はアメリカと戦争に」
「アメリカなど恐るるに足らん! 天運は我らにある」
 小園は机を叩いて、大声一喝した。近江はその小園の剣幕にすこし怯み、目を丸くする。
「天運ですか?」
 小園は椅子から起き上がり、窓辺に立った。そこから見える外の風景は、相変わらず戦場である。
「今日は、珍しく持病のマラリアが熱を出さん。これこそが天佑神助……。アメリカを叩くのは、今日を措いて他日はない」
 近江は、しばし沈黙した。ただ銃声だけが長官室に響き、それは永久に続くかと思われた。
 間もなくして、近江は不意に、パンっと踵を揃え、小園に敬礼した。
「長官。申し訳ありませんが、このような状況下では、私はたとえ軍隊の上下構造を無視しても、独断で爆撃機に対し引き返しを命じざるを得ません。失礼致します」
 近江はくるりと向きを変えて、長官室のドアノブを握った。しかし押そうが引こうが、ドアはびくともしない。
「鍵の在り処と、無線封止解除の暗号を教えてください!」
「楽にしろ参謀長。それに爆撃機を止めることも、もう誰にも出来ん」
 小園は落ち着いて座り直した。ギョロリとした黒い目の玉を動かして、彼は続ける。
「君は、かつては赤レンガで宮勤めをしていたそうだが?」
 小園は新しい煙草を紙箱から取り出して、それを口にくわえた。ライターではなく、マッチで火を点ける。
「……はい、作戦課長でした」
「あきらかな左遷人事だ」
「ほっといてくれ! それがどうしたんです」
「ならば分かりが早いだろうと思うが、」
 小園は櫛も入れていないぼさぼさの頭を、一回り撫でた。夏の盛りに、扇風機の生ぬるい風だけである。首をすこし振ると、汗粒がびっしり飛んだ。
「爆撃機を引き返させる方法がないと分かれば、取るべき手はひとつしかない」
「……対米戦争ですか」
「さもなくば、こちらが一方的にやられる」
 そのとき、窓から蜻蛉が飛び込んできて、小園の机の上に止まった。時折瞬きするように、ぱたぱたと翅を揺らしている。
「慌てふためく重臣どもの醜態が目に見えるようだ。まぁ、どちらを選ぶにせよ、さほど時間は残されていない」
 近江は、もう一度視線を窓の外に投げた。日暮れにはまだ早いが、たっぷり余裕があるというわけでもない。



 




テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

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2007/09/12 13:19URL  タイムブログランキング #-[ 編集]


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 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

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 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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