革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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Category :  小説
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 昭和十八年、大湊警備府。
 この海軍最北の根拠地で、貝塚武男大佐は二度目の初夏を迎えている。
 彼はここで、参謀長という肩書きを与えられていた。

「近くまで来たので」
 東京の海軍省に勤める同期生の一人が、そういって旅のわらじを脱いだ。
 本当にわらじ履きで来たわけではない。

「野暮用だが、公務でな」
 北海道へ行くという。津軽海峡を渡らねばならない。
「足をひとつ仕立ててくれんかな」
「――ああ」
 貝塚は二つ返事で、承諾をした。
「良いよ」
 同時に、「パチン」と音を立てて、白い爪が飛ぶ。
 彼は、椅子の上にあぐらをかいて座り、靴も靴下も投げ出して、足の爪を切っているのであった。
 参謀肩章をつけた白い海軍服のほうは、これは非常に清潔に保っているため、その姿は却っていけない。

「俺たち四六期の中でも、切れもので通るようなお前が」
 と、相手は言った。
「なぜこんなところで燻っているのか、それが分かる気がするよ」
 貝塚は、何とも答えない。
 窓の外は、奥羽の夏である。
 港の岸壁では漁夫たちが、漁網を繕っている。
「ここは、良いところだな」
 同期の彼は、すこし、寂しげな口ぶりだ。
「戦争を忘れてしまうよ」

「そんなことはないさ」
 貝塚はもうひとつ、爪を切った。貝塚はその漁夫たちが、船を海軍に取り上げられ、船なき漁師となった人々であることを知っている。
「誰もが戦争の中で生きている。日本中、どこでも」
「そうは思えん。ここは平和そのものじゃないか」
「違う。ここにも戦争はある。たとえ、お前がそれを感じないとしてもだ」
「ふむ、」
 彼は言葉を区切って、すこし考えた。
「俺のほうで、戦争に慣れ切っている。神経が麻痺してる、というんだな」
「そうだ」
「有り得る話だ。だが貝塚、貴様の言葉はこうも言い換えられるぞ」
「何だ?」
「ここでは、差し迫った戦局の危機は、感じることが出来ない。しかし、」
「ああ……」
 貝塚は頷いた。
「それは、現実の問題だ」

 貝塚は顔を上げて、相手を見る。「――で、」
「海軍は、どう手を打っていく?」
「ウム」
 相手は椅子に腰を降ろし、黒い庇の付いた軍帽を脱いだ。
「まあ、デカい『いくさ』をせねばなるまいな。一度」
「『いくさ』をね」
 貝塚は湯飲み茶碗に短く息を吹き掛けて、ぬるいお茶を注ぎ、彼に進めた。相手はそれをグイと飲み乾し、
「貴様にも、一働きしてもらうぞ。貝塚」
 と言った。
「何?」
「こんなところでのさばらせて置いたら、貴様は駄目になる。今日再会して、俺はそれが分かった」
「俺は、ここがけっこう気に入っているんだが。――」
「ちょうど、空いている艦があるのだ」
 相手は貝塚の言うことを遮って、話を進めた。こんな僻地の警備府よりも、艦隊のほうが良いに決まっている、という頭が彼にはあるのだろう。

「最新の巡洋艦でも用意してくれるのか」
 貝塚が諦めて訊ねると、相手は「バカな」という素振りをし、実際にも言った。「バカな、」
「そんなもんじゃない」
「だろうな」
 貝塚は当然だと思った。貝塚はこれまでに、艦長の経験がない。一度、中国戦線で砲艦の艦長をしたが、それきりだ。駆逐艦長にさえなったことがない彼だ。
「まだ、詳細は言えん。しかし、そのうち改めて連絡する」
「分かった。宜しく頼む」
「うん。かならず気に入るはずだ。期待してくれ」
「痛ててッ!」
「どうした?」
 彼は身を乗り出して、俯いた貝塚を覗き込んだ。貝塚は顔をしかめて、彼に答える。
「深爪したよ」


コメント

No title
つづかないよ。
2008/12/20 12:26URL  廠長 #Iu2BPJvY[ 編集]

No title
“「何が『期待してくれ』だっ」貝塚は毒づいた.
確かに艦長職には違いない.しかし彼が今,ひどく古びた艦橋から見下ろしている甲板には…”

ってオチが続くんじゃないのw
2008/12/20 19:05URL  「い」 #6y6JeEAQ[ 編集]

No title
標的艦「摂津」かな。
2008/12/20 23:22URL  12式戦爆 #gJtHMeAM[ 編集]

No title
http:/homepage2.nifty.com/nishidah/px46.htm#v002
(艦は有名なのに、あまり有名でない不憫なこの艦長)

「乗艦(お前)の影に隠れてるよな、絶対」
「そ、そんなことないですよ貝塚さん。だってほら、ここ見て下さい。少将から中将に十日で昇進してて、凄いじゃないですか」
「二階級特進しただけだろうが」

>標的艦「摂津」かな。

深読みしても何も無いですよw
2008/12/21 01:03URL  廠長 #Iu2BPJvY[ 編集]

勝手に続ける
「いや鳳翔に乗せられた時には『次は予備役か』と思ったな真面目に」
「そんなにスゴイですか鳳翔さん」
「練習艦隊ってのはなぁ,乗ってる奴らがみんなヨタヨタの病気上がりかヒヨッコばかりで,頼りないことおびただしい.また肝心のヌシが…」

鳳翔「おーよーびーでーすかー. かーんーちょう~」

「うわ.出た」
翔鶴「呼んでない呼んでない婆さん.ほれ寝床はこっちだ」
鳳翔「あーりーがとー姉さーん いつもーすまないねぇー」
「鳳翔さんは姉さんの言うことはよく聞きますね」
翔鶴「あの婆さん,いつも私のことを死んだ自分の姉と間違えるのだ.すっかりボケてるとみえる」

(注: ボケてるのではありません.翔鶴は未成に終った鳳翔級一番艦です,つまり翔鶴さんは幕末の初代から数えれば三世)

「あの通り外見は子供で中身が婆さんってのもなぁ,
 目ぇ悪いし耳遠いし」
龍驤「まあ,なんて無礼な口の利き方…」
瑞鳳「放っといてんかっ」
「お前らのことじゃないって」

「それで苦労したから,にわか艦長のくせに妙に操艦が上手いんですね」
「……妙に.は余計だ……」
2008/12/24 20:16URL  「い」 #6y6JeEAQ[ 編集]

右の提供でお送りしています。⇒海軍省
「血縁でないのに姉妹ということは、認められません」←大淀
「あ、事務屋さんだ。しかも理屈倒れの」
「はい戦時国債」
「ゲェーッ!」(ばたっ)

「おい公務員。婆さんを養老院に入れる手続きは済んだのか」

「年金記録が見つからないので無理です。翔鶴、あなたが肉親ならば予算を肩代わりしてください。この軍艦献納金はいつでも募集していますので」
「パンフレットを寄越すな! それに私は奴の肉親というわけではないぞ」
「そうです、そのような前例はありません。まして歳若いほうが姉などということは」
「それもあの老いぼれが勝手に言っているだけで、」

「……そういえば三国志では、関羽さんは劉備さんより年下ですけど、弟ですよ」

「ほう、そうだったかな。それならどうだ大淀」
「義姉妹なら問題はありません。が、そうすると翔鶴は」
「人徳のない劉備さん、ってことになるですね」
「何だときさま」
2008/12/25 01:37URL  廠長 #Iu2BPJvY[ 編集]


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*ようこそ、トラブルシューター。*

Computer:
 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

 市民の幸福は、コメントを書き、Computer に奉仕することです。
 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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