革命国家が勝利に向かって前進する玉川上水のブログ

駿河南海軍工廠の後継。近現代史小説を中心に掲載。

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 海上自衛隊の空母「なぐもちゅういち」は、ソマリア沖で旧日本海軍・伊号潜水艦を見つけ、てんやわんやの大騒ぎとなった。
 伊号は昭和二〇年の出撃以来、終戦を知らず、今日までひたすら作戦を続けていたのである。乗員は、みな九〇歳を超えていた。


「敵の哨戒機に発見される恐れがありますから、昼間は潜航をし、充電は専ら夜に行いました」
 今年百五歳になる伊号艦長の老少佐は、綽々とした調子で、これまでの一切の経緯を説明した。空母「なぐもちゅういち」に座乗の海将補は、その説明を聞きながら、俺の親父よりも遥かに元気そうだ、と思っていた。

「うむ……。で、では、糧秣・燃料等は、どうしていたのか?」
 海将補は努めて平静を装いつつ、自分の年齢を二つ合わせたくらい年上の少佐に、訊ねた。

「は。出撃に当たり、軍令部総長から、原住民宣撫用の現金を頂きましたので」
 少佐は紙幣を取り出して海将補の机に置き、
「沿岸の住民と交渉し、確保致しました」
 やはり、見たこともない紙幣だった。

 伊号の乗員は空母に収容され、大宴会が始まった。伊号を曳航する「なぐもちゅういち」に酒は無かったが、老人たちは自衛官が隠し持っていた酒を、どこからか見つけて来て、全て飲んでしまった。大戦中の潜水艦の歌・「轟沈」や、「可愛いスーチャン」などを歌う声が、艦橋にも聞こえて来る。

「艦長、これからどうするんですか。あの年寄りたちを」
「うーむ。航海長、困ったことになったな」
「実に実に、困ったことです」
「医務長が、戦争のことは知らせてはいかん、と言っておった」
「どうしてですか」
「みんな、九〇を越えてる爺さんだ。日本が負けた……などと聞いたら、一体、どうなるか」
「全員、お迎えが来ますかね」
「本艦を乗っ取りかねんよ。ううん」


 連日連夜の宴会のさなかに、艦内放送が入った。
『総員聞け。艦長よりお言葉がある』
「おい、天の声だぜ」
 伊号乗員たちは盃を置き、耳を澄ませた。老少佐もするめいかを齧りながら、スピーカーを見上げる。

『艦長だ。本艦はこれより東京湾へ向かう。途中寄港はしないので、伊号の乗員も同行する。終り』
 ざわめきが起こった。
「おい、東京湾だとよ。内地だよ」
「じゃぁ、任務はどうなったんだ」
「静かにしろ。騒ぐな」
 そこへ、空母の航海長が現れ、声を張り上げて、彼らに言った。
「諸君らが知らんのも無理はないが、すでに米国は無条件降伏をし、大東亜戦争は我が国の勝利に終わったのだ。帝国は今、東亜の盟主としてますます栄えておる。わかったなァ」

「おお」
「終わったのか、戦争が」
「日本が勝ったのか」
「そうかぁ」
「万歳!!」
 またもや、ドンチャン騒ぎが再開した。

「艦長、伝え終わりました」
「ご苦労だった、航海長。どうだった、みんな大喜びだったろう」
「それはもう、九〇の年寄りが、まるで子供のようで」
「何やら、胸が痛むようだな。いずれ、ばれてしまうことだが」
「しかし、もはや戦争のことなど、誰も覚えていません」
「まぁ、な。ところで、航海長、東京湾にはいつ到着する」
「七日後には東京湾です」


 航海長の言う通り、空母「なぐもちゅういち」は、きっかり七日後、太平洋から東京湾へと達した。
 浦賀水道を通る時、飛行甲板にはもう、帝国海軍の水兵服を着た伊号の乗員たちが、鈴なりになっている。
「見ろ。松の木だ」
「良かったな。内地は変わっていないのだな」
「お前はそんなに皺くちゃだがなぁ」

 次に伊号の乗員たちは、艦の正面から、星条旗を掲げたアメリカ海軍の駆逐艦がやって来るのを目撃した。
「おい、アメ公だ」
 みな緊張したが、米駆逐艦は針路を変え、こちらへ敬礼したので
「やはり、戦争は終わったんだな」
「日本の艦のほうが偉いのだ」
 と思った。(本当のところは、海自空母に海将補の旗が揚がっていたからに過ぎない)

 空母は横須賀に到着し、老人たちはそこから小型艇に乗って出発することとなった。
「これより東京に上陸する。帝国海軍軍人として、地方人に迷惑をかけてはいかん。諸君らは特殊な環境下に居たのであるから、暫くのあいだ座学の講義を受けて、日本の現状をよく知って欲しい。長いあいだ、お国のために誠にご苦労様でした」

 空母艦長の訓示のあと、海上自衛隊の灰色の高速艇が、乾いたエンジン音とともにやって来た。老少佐はそれを見て、一歩進み出
「少将。お願いがあるのですが」
「何かな、少佐……」
「我々はこのように歳は取っても、栄光ある帝国海軍潜水艦乗りです。あんなもので楽々と運ばれるのは性に合いません。短艇を用意して頂きたいのです」

 四艘の短艇が、直ちに用意された。
「少佐、大丈夫かね。本当に」
「御心念には及びません」
 少佐は「掛れ」と号令を掛けた。真っ白な海軍服を身に纏った、九〇の老人たちが、忽ち艇に乗り込んだ。

「さあ、上陸だ」
「お前、まず何する?」
「俺はメシ」
「俺は女だ」
「なにーィ。手前ぇ、幾歳のつもりで居やがる」
「おい、静かにせい」
 最後に少佐が乗り込み、笛を銜えて、短く、鋭く吹き鳴らした。それを合図に、四艘の短艇の全ての櫂が、一斉に揃って、垂直に立てられる。
 そして、少佐は敬礼を送った。海将補の艦長が、はっとして答礼を返すと、海自空母の全乗員が、慌しくそれへ倣った。

「櫂備え、両舷前用意」
 空母から充分離れたところで、櫂が水平に降ろされ、やがて
「前へ」
 の号令が掛った。
「それ行けッ」
 老人どもの船が、白波を裂き割って、躍り出た。熾烈な競争が始まった。

「おい、右のやつが前に出るぞ」
「貴様ら、そんなに上陸が嫌なのか」
「遅い、遅い!!」
 艇はすさまじいスピードで、周囲の船を次々と追い抜いていった。海自の高速艇が、彼ら帝国海軍老人の後から追いかけてくる。
 とても、追いつけない。

 横断橋を潜り抜け、前方に、東京の高層ビル群が見えてきた。
「目標を肉眼で確認」
 一人が叫んだ。
「凄い摩天楼だな」
「やはり、日本は神の国だ」
「よし、軍歌始め」
 少佐が命じ、老人どもが唱和した。


 ――轟沈轟沈、凱歌が挙がりゃ
 積もる苦労も苦労にゃならぬ。
 嬉し涙に潜望鏡も、曇る夕日の、曇る夕日の印度洋。


 その声は、勿論もはや空母には届いて来ない。
 それから、数日が経過した。
「いやはや、本当にとんでもない老人どもだったな。航海長」
「ああいう拾い物をするのは、もうこれきりにしたいところですね」
 海将補の艦長は、艦橋の椅子に腰掛けたままコーヒーを啜っていたが、ふと、思い出したようにして
「そういえば、知っているか。その後の、あの伊号のことだ」
「いいえ、私は何も。性能調査のため、試運転をするということでしたが」
「出撃したよ」
「えっ」

「あの老人どもめ、案の定、逃げてなぁ。宿舎から」
「ふむ。それで、伊号はどこへ」
「分からん。どこへともなく、闇に紛れて、消えてしまった」
「そうですか……」
 航海長は艦橋の窓から、遠い太平洋を見て、
「何やら、物悲しいようですな」
「そうでもあるまい」
 艦長はコーヒーカップを受け皿に置いて、椅子から立ち、同じように窓を覗いて
「ただ、船乗りが、奴らの住処へ帰っただけさ」
 と言った。
「俺は、何となく、奴らのことが羨ましい位だよ」

 太平洋の海深く……。
 老人どもの伊号が、今もどこかで――。
 いや、まさかね。





コメント


新しいブログ「迷走戦線以上なし」を立ち上げリンクを貼った
のを連絡します。
2009/10/07 22:16URL  葛城マサカズ #-[ 編集]


おめでとうございます。
http:/turumasa.blog12.fc2.com/
こちらですかね。
2009/10/07 22:45URL  廠長 #w1X/gZh6[ 編集]


そのアドレスで合ってますよ。これからもよろしく
2009/10/08 23:11URL  葛城マサカズ #-[ 編集]


「老人と海」ですな。
滑稽でいてどこか物悲しいのがよい。しかし「なぐもちゅういち」の時点で気づけよ老人。
2009/10/10 18:49URL  ツンドラッヘ #IVWpImkQ[ 編集]


『老人と深海』というタイトルも候補にあったんですけどねw

海自空母の艦名は「しょうかく」や「ずいかく」も考えたんですが、数年後に実際に建造されてしまいそうな世情ですので止めました。
2009/10/10 21:36URL  廠長 #w1X/gZh6[ 編集]


瑞祥動物はむしろ潜水艦名になったようですしね。
空に関係ない潜水艦に「ひりゅう」、「てんりゅう」や「~鶴」、「~鳳」というのはいかがなものかと岡部いさく氏が書いてましたが。

空母といえばしらね代艦22DDHはまたまた船体を大きくして精悍になりましたね。それもそのはず、基準排水量で20000トン、全長が248メートルと、NATOのどの現用軽空母より大きい。それでいて上はいっぱいいっぱい飛行甲板にするのですから美しいわけです。
それで、対潜、対空能力を米空母並みに落として搭載機数は「最大14機程度」…詰めたら何機搭載になるんだろう。
加えて車両搭載能力。今流行りのハイブリットキャリアーですな。
というか現在の護衛艦戦力(実質八八艦隊のみ)で4空母の随伴艦をやりくりするつもりですか>海自

あっ空母って言っちゃったw
2009/10/11 08:42URL  前身翼 #-[ 編集]


そう云えばこの「なぐも」号もエスコートなしの単艦行動っぽいですね。

日本の海自に限らず、近頃は世界の各国で新型空母の建造が流行ぽいですね。
ほんとに不景気なのかなぁ。
2009/10/11 23:52URL  廠長 #w1X/gZh6[ 編集]

便乗商法

グラたん:「……というわけだから、ケーラー大統領、今すぐ建造しなさい。私を」(ドンッ)
ケーラー:「いや、君誰?」
グラたん:「むきー」(@×@)
2009/10/12 01:04URL  ツンドラッヘ #IVWpImkQ[ 編集]


世にも奇妙な飛行船母艦が誕生。

「飛行船が母艦? 飛行船の母艦?」
2009/10/12 02:27URL  廠長 #w1X/gZh6[ 編集]


大きな大きな飛行機が、突如海原に舞い降りた。
北海を漁場とするドイツ連邦のサケマス漁船たちは一目散に大きな飛行機の胴体部分が開いたスロープに逃げ込んだ。
スェーデンとノルウェーの不法漁業監視巡視船が慌てふためきながら追いかけるのを後目に、飛行機は再び大空へ舞い上がる。
「はっはっは! 北海の漁業権は我が独逸のものだ! 無差別漁獲作戦! パウケンシュラークだ! はっはっはっはっは!」
あっけにとられた巡視船の乗組員たちは、その飛行機の胴体に書かれた文字を、驚愕とともに目に焼き付けた。
「グラーフ・ツェッペリン」

飛行・船母艦。

グラたん:「そこで区切るのかよ!」
シャル:「オチが見当たりません」
2009/10/12 23:56URL  ツンドラッヘ #IVWpImkQ[ 編集]

王室戦隊ロイヤルネイビィ
漁民「ああっ、俺たちのスケトウダラがー」

ロイヤルネイビィ「クリークスマリーネめ、許さんぞ!」
チャーチル卿「全艦隊出動だッ」

出演

「ロイヤルネイビィ」(HMS):
 正義の味方。世界中に散らばり、七つの海の平和を守っていたが、最後にはアメリカの手下になる。
「チャーチル卿」:
 HMSの司令官で、KMSを滅ぼすが最後には選挙で負ける。

「クリークスマリーネ」(KMS):
 悪の組織。高度な科学力を持ち世界征服をたくらむが、常に仲間割れをしてお金のことで揉めている。
「デーニッツ提督」:
 精鋭部隊Uボート戦隊の司令官。終盤ではKMS総司令官に就任するがいつも総統に怒られて終わる。

「聯合艦隊」(IJN):
 日本列島に近付くと出現。神風攻撃などをして来る。
 アメリカと仲が悪い。

「アメリカ」(USS):
 合衆国は世界一の国です。
2009/10/13 16:12URL  廠長 #Iu2BPJvY[ 編集]


この記事に対するコメントの投稿



*ようこそ、トラブルシューター。*

Computer:
 このコメントフォームに「/」を重ねて書くことは反逆です。
 URL欄にアドレスを入れる者は、恐らく反逆者以外にはいません。

 市民の幸福は、コメントを書き、Computer に奉仕することです。
 あなたはComputer の仕事に感謝して、喜んでコメントを書きますね?
 そうしないことは反逆です! 直ちに処刑の対象になります!!
 
















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